激闘!! 新居獲得大作戦!!

 

 

 城からの引越しが確定したある日、は何を思ったのか、同盟国への挨拶回りに三成を送り出した。
戦から事務方まで与えられた仕事は卒なくこなす。
が、対人関係において、かなり癖のある三成をよりにもよって外回りへ出す事に、諸将は不安を覚えた。
 だが皆は三成を送り出した直後に起こしたの行動を見て納得した。
は引越し先となる古城の視察へ、慶次、兼続、政宗、長政、市、半蔵、を伴って自ら出立したのだ。

「折角だからさ、自分の目でも見ておきたいじゃない?」

 軽い調子で出掛けて行ったを止められなかった事を、城の警護に残った面々は、たっぷりと後悔する事になる。

「ねー、そろそろ見えてくる?」

「どうだろうなぁ…」

 相変わらずの指定席は松風の上、慶次の腕の中だ。
地図を片手に先頭を進む政宗と兼続が、道の選び方でたまに険悪な空気を醸し出す。
だが二人ともの目がある為に、大事には発展させてはいない。

「道の確認も兼ねて、あのお茶屋さんで一服しようか?」

「市に異論はございません」

様〜、市様〜、桜餅が美味しそうですわ〜」

 妙齢の女が三人も揃えば、自然とピクニック感覚になってしまうのは仕方のない事だと、連れ立っている男集は苦笑した。昼前の出立だった事もあって、時間にも今の所余裕がある。少しくらいの寄り道も悪くはあるまい。
 結局、途中の茶店で二回も休憩をして、農村の民に道順を尋ねつつ辿りついた古城は、想像以上に酷い有様だった。
あらゆる所が朽ち果てていて、屋根瓦も崩落している。石造りにはびっしりと苔が貼り付き、かつては純白であったであろう城壁には蔦が根ざし、四方八方へと足を伸ばしていた。
この苔と蔦の折りなす文様が、またよろしくない。
陰影のせいもあるのだろうが、一見すると数多の髑髏が重なり合っているようにしか見えないのだ。
 降りた馬を近くの林に繋いで、高台に聳え立つ城を見上げた時、は思わず呟いた。

「…なんかもー、悪魔の住処って感じ? 兼続さん連れてきて正解だったよね」

 好き勝手に生えている雑草に覆い尽くされた石畳の上を互いに手を貸し合いながら進み、朽ちた正門の前へようやく辿り着く。何故これほど時間をかけたのかといえば、そこかしこに広がった草むらの中から、不意に蝮の類が飛び出してくるとも限らないからだ。
 戸の片側が外れ、支柱は腐り、辛うじて門としての姿を留めている門扉の前に立つと、自然と寒気が湧き上がった。
遠目に見ていたはずの古城の有様は、近付けば近付くほど禍々しく、怨念のようなものを迸らせているように思えた。
 城のどこかに鴉が巣でも掛けているのだろうか。
カァカァと鳴いては、城の上空を飛び回る。
その様は、部外者の来訪を監視するようでもあり、餌を求めて虎視眈々と隙を窺うようでもあった。

「…思ったより…気味が悪いですわね…」

「…そ、そうですね…」

 朽ちた城を前に、と市は完全に気圧されしている。
門扉を潜る事を躊躇う二人に両肩を貸しているはというと、ジト目だ。

「うん…なんか……本当に、何か出そうだよね?」

様!!」

 脅えきるに対して「ごめん、ごめん」と謝りつつ、は言う。

「兼続さん、ちゃんと市さんと一緒に行動してあげて? 二人ともそんなに怖がらなくて大丈夫だよ。
 謙信公の薫陶を受けた兼続さんが一緒だから、何か出てもやっつけてくれるって」

 先発隊となり城の再建案を纏めに来ていた役人が、の姿を認めて飛び上がる程驚く。
その様子を案内役を努める近隣の民が不思議そうに眺めている。
気が付いたは表情一つで上手く誤魔化すように示唆して、朽ちた門扉を潜った。

「中を確かめるのか?」

「うん、一応ね。上の階は半蔵さんと政宗さんで見て来てもらえますか? 
 大丈夫だと思いますけど、随分腐ってるみたいだから足元に気をつけて下さいね」

「お、おう」

 半蔵は忍の特性からか姿を隠しているわけで、政宗からしたら一人で行ってこいと言われているようなものだ。

「じゃ、私と慶次さんと、長政さんで蔵の方を。
 明かりが入りやすい一階付近の捜索は、ちゃんと、市さんと兼続さんでお願いします」

「分かりました」

「が、頑張りますわ」

 何時の間にか両サイドから服の端を捕まれていた兼続は、すっかり幼稚園児の引率のような姿になっていた。

「じゃー、そうですね、半刻ほどしたら、また門の前で集合と言う事で。
 再建案に繋がりそうな何かを閃いたら、皆さん遠慮せずに仰って下さいね」

 松明に火を入れて歩き出したの背を視線で追いながら、別行動を申し渡された面々は思わず溜息を漏らした。

「度胸が据わっていると言うかなんと言うか…本当にさんは傾いてるねぇ」

 一方、一緒に進む慶次に言われたは、あっけらかんと笑っていた。

「えー、だってお化け屋敷みたいなもんじゃない。それに資料によると百五十年前だったけ?
 この城が現役だった頃って。そんなに経ってるなら、居ついている幽霊も、きっと成仏しているよ」

 根拠のない断言をしたが、己の発言を悔い改めるのは、それから一刻後の事だった。

 

 

「なんかさ、視線とか感じない?」

「某は特に…」

「んー、俺もあまり気にはならないが」

「そう? …なんだろ、さっきらずーっと誰かに見られてる気がするんだよね…」

 自らの髪の毛を遊ぶように指先で弄りながら、は倒れている調度品や埃を被った桶を踏み越えて進む。

「それにしても……兼続さんも大変だなぁ」

「…はははは…」

 乾いた声しか漏らせぬ長政を見て、同時に「すみません」と謝れば、長政は首を横に振った。
先程から市との悲鳴が交互に上がっていた。

「キャーーーーー!!!」

「蜘蛛の巣だ」

「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 長政様ー!!」

「風の音だ」

 その度に解説を入れているらしい兼続には頭が下がる。
二人のステレオ仕様並の悲鳴を聞きながら、彼は全く動じていないようだ。
あそこまで些細な事で騒ぎ立てられると辟易する。
だがこうして目の前で悲鳴一つ上げずに、ずんずんと進んで行く漢らしいを見ていると、物足りなくもなってくる。殿を努める慶次は複雑な心境に陥っているようで、その心情が面持ちにもよく表れていた。
 だが、そう呑気にも構えてはいられなくなった。
奥に進めば進むほど、妙な冷気が漂っている。そしてが口にした視線がねっとりと絡みついてくるのだ。

さん、俺の後に来な」

「う、うん…そうする」

 先頭を歩いていたを慶次が呼び止めて、代わりに長政が松明を取った。
瞬間、階上で政宗の絶叫と、大きな物音が響く。

「……え、何?! 今の…」

「踏み外しただけである事を祈った方が良さそうですね」

 そう言った長政が槍を改めて握り締めた。
の肩に手を掛けている慶次もまた、ぐっと鉾を握る。
食料庫となっていた蔵の前までやってきた彼らは、そこで肌につき刺すような殺気と悪意を感じ取った。

「…か、兼続さん…呼ぼうか?」

 素人のにも分かる殺気だ。
これはただ事ではないとが口を開くのと同時に、一階部にいるはずの、市達の悲鳴が上がった。
続いて階上にいるはずの政宗の時のように何かが崩落する音。

「ちょっとこれまずくない?!」

 三人は顔を見合わせて、目前の蔵を放り出して駆け出した。
一番近いところにいるはずの兼続、、市の姿を求めて、一階の部屋を突きぬけて走っていたら、突然朽ちた押入れが開いた。
慄いて立ち止まれば、そこから政宗が転がり出て来る。

「な、政宗さん?! どうして?!」

「く!! 聞きたいのはこっちじゃ!! 天守閣に昇ったところで突然吸い込まれた!!」

「どこに?」

「朽ちた押入れじゃ!!」

「えええーっ?! うっそ、ここってもしかしてもしなくても、マジで幽霊屋敷?!」

 が絶叫して、窓の外を見やる。
崩れた廓の向こうには自分が先発隊として派遣した役人と案内役の村人の姿があった。

のお姫様がここへ引っ越してきて下さるのは有難いが…止めた方がいい。
 ここは壕憑(ごうつく)という昔の殿様が建てたお城で、あんまりにも欲張りだから部下に殺されたんじゃ。
 殿様はその事を恨んでて、まだこの城に住んどるんじゃ」

「まさか、そのような話、迷信であろう?」

「本当ですじゃ、だから他所の殿様は、皆、ここにこなかった訳で…」

「わしらも年に一度、貢物を持ってくるだ。でないと、祟りで田畑を荒らされるんじゃ」

「祟り…か? 本当の本当に、それは祟りなのか? 何者かが隠れ住んでいるという事は…」

「ないだ!! ほんに祟りだよ!!」

「そ、そうじゃ、そうじゃ」

「お気持ちは嬉しいが、名君と名高いのお姫様に祟りがあってはお可哀相だ、どうか別の土地へ…」

 残念そうな口ぶりの彼らの会話が、徐々に遠くなって行く気がした。

「あのさ、今、昼だよね?」

「ああ、昼だな」

「じゃぁ…なんで、外…暗くなってきたの?」

 の質問に答えられる者がいるはずもなく、次の瞬間にはもっと面倒な事が起きた。

「あ。壊れてたはずの雨戸が勝手に閉まった」

「淡々と解説してる場合か、馬鹿めッ!!」

 叫ぶ政宗の前で、は慶次を呼ぶ。

「どうした? さん」

 しゃがんで、しゃがんでと身振り手振りで指示する。
彼がその通りにすれば、は慶次の首に両手を絡めて抱きついた。

そして、すぐに泣き叫んだ。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
 怪談なんて信じない、お化けなんていないんだーーーーーーー!!!」

「落ち着け、馬鹿めーっ!!!」

 つまり、抱かかえて逃げろと、そういう事なのかと察した慶次が立ち上がる。
それと同時に、城中に残された朽ちた備品が浮かび上がった。
中には錆びた工具なども含まれているから、侮れない。

「おいおいおい」

「くっ…これは一体……」

「いやーーーっ!! ポルターガイストー!!!」

 本物の幽霊屋敷だったと脅えるが慶次の首に回していた腕に更に力を込めた。
慶次、長政、政宗はそれぞれの武器を奮い、襲いかかって来た備品を叩き落として、門へと向い移動する。
その途中で、一階部の床板の一部に大きな穴が空いているのを見つけた。
慶次に抱き上げられた事で、彼の高さから全てを見下ろす形になる。
俄然物の見通しが利くようになったは、その穴の端に見慣れた簪を見つけると叫んだ。

「あーっ!! あれ、ちゃんの!!!」

「何?!」

 足を止めた慶次の背へ続いていた長政、政宗がぶつかる。
が重心を傾けた事もあってか、梃子の原理のようにぐらついた慶次の巨体は、そのまま二人を巻き込んで、開いた大穴の中へと落っこちた。

 

 

「っ…ん? 痛った〜」

 穴倉の中に落ちたが起き上がれば、下敷きになってくれた慶次と目があった。

「あ、ごめん…慶次さん。痛くない?」

「いや、俺は平気なんだが……さん、ソレ、そろそろどかした方が良くないか?」

 珍しく不快を露にする慶次の視線に促されて視線を流せば、の太股の上へ政宗が顔から突っ伏していた。

「ぎゃーーーー!!!!!!」

 思わず蹴り飛ばせば、慶次はしてやったり顔になった。
我に返った政宗が慶次に食って掛かりかけた刹那、狭い穴倉の奥から二人の美少女の声が上がった。

「「様〜」」

ちゃん、市さん? いるの?!」

 持っていた松明を無くしてしまった手前、数メートル先の視界が利かない。
困ったは、ふと閃いたように懐から自分の携帯端末を取り出した。
携帯端末を開けば、ディスプレイから漏れた微弱な光が当たりを照らし出した。

「ちょっと待ってね、カメラ用のライトに切り替えるから」

 手早く操作して灯りを手にしてから辺りを見回せば、そこは頭蓋骨が散乱した穴のど真ん中だと知った。

「ひっ!!!! いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 年頃の女としてあるまじき悲鳴だと思ったが、怖気には勝ち目がなかった。
の悲鳴を聞いた美少女二人も、暗がりの向こうでつられたように叫ぶ。
これ以上、混乱を酷くされても敵わないと踏んだのか、慶次が一番最初に立ち上がった。
長政と政宗を穴の上へと放り出し、次に、市の順に放り出す。

「聞いて下さい、聞いて下さい、様っ!! ここ、何かいますの!!」

「そうなのです、様!!」

「うん、うん、分かってる。もう充分過ぎるほど分かってるからッ!!」

 三人でぎゃあぎゃあ騒いでいると、一人遅れて自力で這い上がって来た慶次が顔を顰めた。

「どうでもいいんだが…兼続はどこだい? お嬢さん達」

「あ、あれ…? そう言えば……」

 と市が互いに顔を見合わせた。

「私達と一緒にあの穴に落ちたはずですけれど…」

「と、とにかくさ…兼続さんには悪いけど、一度お城から出ない?? ここ、マジでヤバイよ」

「確かにそれもそうだな。あいつならどうとでもするだろう」

 の提案を政宗が後押しすれば、長政、慶次はそれも止むなしと判断した。
兼続を探そうにも、面子が悪過ぎる。
少なくとも、この騒ぐばかりの娘達をどうにかしてからでなければ、お話にならない。

「じゃ、一先ず出口を探そうぜ」

 慶次の言葉を受けて、達は一もニもなく頷いた。

 

 

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