景品はあなた |
「審判」 「え。あ、はい。なんでしょう?」 「卿に問う、卿の弟子はかような強さであったか?」 唐突に問われては「答えていいのかな?」と口籠る。 「場の形勢が動かぬ故、多少飽いたのだ。気を紛らわせてくれぬか」 「官兵衛殿、それは卑怯というものでは?」 純粋に腕試しをしたいから、このような方法で三成の注意を逸らされてはたまらないと、吉継の目は語った。 「卑怯? さてな?」 窘められてもどこ吹く風の官兵衛には言う。 「正直三成さんがこんなに強いなんて思ってなかったから驚いてます。 目に見えて三成の背に影が張り付いたような気がした。 『挑発にのった』 薄く笑う官兵衛。仕方のない奴だと小さく溜息を吐く吉継。 「でも……なんでその牙を隠してたかは知らないけど、三成さんらしいな…とも思います。 「…お前相手ではこうはいかぬ」 遠回しすぎる告白にピンときたのは残念ながら外野だけだ。 「何故でしょう…目頭が熱くなってきました」 隆景がわざとらしく袖で己の眦を拭うふりをした。 「放っておけ。もう慣れた」 周囲からやたらと弄られる三成に同情的になって来たのか、卓上の力関係が官兵衛vs三成・吉継の構図に傾いた。 『ですからー!! お二人ともそういう所なんですってば!!!』 幸村が「はぁ…」と溜息をついて、左近がおかしくて仕方ないという風に笑いを噛み殺した。 「あいつ結構不憫だな」 自滅した男こと藤堂高虎が露天で購入して来た餅菓子を口に運びながら言った。 「そうか。三成は今、愛に燃えているのだな」 「やかましいのだよ!!!!」 三成は愛という単語にやたら反応した。 「おい、審判! 有象無象共をどうにかしろ! 気が散る!!」 「あ、はーい。皆さん、個人的な茶々入れはその辺で〜!」 に窘められた外野がすまんとばかりに小さく会釈した。 「ったく…なんで俺ばかり弄られるんだ」 「なんでって三成…お前それは…」 「皆まで言うな、分かっている」 手札から特殊札を切りながら、三成は官兵衛を見た。 「官兵衛殿」 官兵衛が卓から視線を上げる。 「俺は今回ばかりは引きませんよ」 先を促すように、官兵衛は自分の手の中の札に手を乗せたままだ。 「今回だけは、俺は折れないし、引かない。諦めないし、必ず這い上がってみせる。何時間でも貴方に食らいつく」 官兵衛の眉が俄かに寄った。 「…それで?」 「半兵衛殿が居れば、貴方が本気になる価値もあったのでしょうが、生憎あの方はもうここにいない」 官兵衛の顔が明らかに歪んだ。 「……あまり、俺を苛めないで下さい。俺達では貴方の相手には力不足だ…」 三成の口から洩れた小さな小さな声に、官兵衛が息を呑んだ。 「…ふっ…………確かにな…」 官兵衛は切るはずだった札から指先をずらして、別の札を切った。 「恐れるべきは卿ではなく…あの花よな」 あからさまにやる気を失った官兵衛に、秀吉もも不思議そうだ。 『全く…勝つ為であれば平然と泣き落とすか。あの三成が…』 顔色を窺われた瞬間、官兵衛の目には三成の背後に白い軍師の幻影が見えた。 『官兵衛殿、後進をギタギタに叩きのめしても誰も褒めてはくれないよ? 三成が口にしたように守るべき者が居ない戦い。 「三成」 「何か?」 「……今年の歳暮は南蛮菓子を所望する」 「はい、官兵衛さんアウトー! 今、賄賂要求しましたね? 流石にルール違反です!」 一応審判としての任をきっちりこなすつもりらしいが官兵衛に退場の判定を出した。 「三成さんが何言ったのかは知らないけど、なんだかんだ棄権させちゃうんだもん。 が独白している間に、棄権扱いになった官兵衛が近寄ってくる。 「さて、後はホモカップル対決だよね」 「ホモカップルってなんだい?」 ねねの素朴な疑問にが簡潔に答えた。 「えーと、衆道の番みたいな? そんな感じでしょうか」 ブフォ!! 「ちょ、! その誤解はほんに勘弁してやって欲しいんさ」 「えー、でもなんか吉継さんいっつも三成さんの事庇ってるしさぁ。三成さんも吉継さんには甘えてるしさぁ。 「いやいやいや、流石にそれはないって」 卓でガチンコバトル中の二人の代わりに、秀吉が必死で否定していた。 『三成…まだどうにかしていないのか!!』 『だから俺に期待をするな!!』 なんで夜の手習いの際に託けて押し倒さなかったと、視線で問い詰めてくる吉継から三成は逃げた。 『そ、そんなに単純に縮まる距離なら苦労はないのだよ!!』 『お前が少しでも迫れば、あの誤解は解けたのではないのか!?』 衆道の一言が吉継の怒りの導火線に火をつけたようで、吉継が怒涛の攻めを見せている。 「私の予想だと三成さん女側な気がするんだよね。吉継さんはどう見てもそっちには見えない」 「いやいやいや、二人ともそーゆんじゃないんじゃって!」 「えー、でも怪しいと思うんだけどなぁ」 「審判!! 黙れ、気が散る!!」 三成が吠える。 「あ、はーい。すみませーん」 怒られちゃったと舌をぺろりと出して誤魔化すに、吉継は簡潔に言った。 「」 「はい?」 「今夜夜這いされても文句は言うなよ?」 「え、なんで?」 「そのきっかけを、今、お前は自分で作ってる」 「えー? なんで? どうしてー?」 「だから、もうその手の話は別にいいだろう!!」 三成が泣きを入れた。 「うの」 と宣言した上で、最後の1枚を場に捨てた。 「はい、勝者決定!! 優勝は大谷吉継―!!」 「容赦ねぇなぁ」 観客席で呆れたような声を上げた正則に、「そうでもない」と言ったのは幸村だった。 「久々に懐かしい顔を見たのでな、その礼だ。それに少しばかり大人げなかった」 譲り受けた茶器を大切そうに抱えて、利休は会釈を一つ見せると早々に帰路に就いた。 「さて、景品を記した目録は滞りなく行き渡ったかのう?」 表彰を済ませて、閉会の儀を執り行って、大会は無事に閉幕となった。 「うんうん、いい塩梅じゃ。また機会を作って開催するのもええのう」 「構いませんが、その時はの席はきちんと別に作って下さいよ」 三成が仏頂面で毒づいた。 「え、なんで? ここ駄目ですか??」 が大きな瞳を瞬かせれば、三成が降りて来いとばかりに手招きした。 「良く見てみろ」 「え! 何これ!?」 ようやくそこで”お好きにして下さい”の一文を目にしたは、飛び上がるほど驚いた。 「茶器が褒賞ということで、恐らく流派の話なのだとは思うが…」 「が中央に座していたからな。大抵の者はお前を好きに出来ると認識していたと思うぞ」 「でなければ三成が飛び入りで参戦などするものか」 吉継と三成に決定的な言葉を向けられては今更ながら慌てふためいた。 「いや、そんな! ええ!? 恐っ! 何これ、怖すぎる!!」 「三成が血眼になって戦っていた理由が少しは分かったか?」 ホモの片割れと称された上司が釘を刺せば、は大きく相槌を打った。 「ありがとう、三成さん! 師匠が売り飛ばされないように、必死になってくれたのね!」 「…いや…まぁ…そうだな…ああ…そういう事にしておこう……」 どんよりと影を背負った三成の背を見ながら、秀吉は独白した。 「……官兵衛、おみゃーさん、棄権せん方が良かったんじゃないかのう…?」 「ええ…今更ですが……そんな気がしますな」 「まぁ、殿の景品は各地の特産品ですからねぇ。 左近の助言を受けて、三成はそれもそうだな…と気を取り直した。 「あ、そろそろ舞台の時間だ!」 大々的な催しということで、は片付いた舞台の上でちゃっかり芸事を披露出来るように、舞台の管理者に働きかけていたようだ。 「衣装変えなくちゃ!!」 挨拶もそこそこに、颯爽と皆の前から離れ、控室として借り上げた長屋へと駆けて行く。 「いやはや…殿の木花咲耶姫はつれないもんですなぁ…」 「まぁ、頑張れ。三成」 「優勝を掻っ攫ったお前に言われたくない」 この片思いが報われる日が来ることはあるのかと、三成はがっくりと肩を落とした。
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各ゲームのこと書いてたら、想像以上に長くなっちゃった。(19.10.19.) |