景品はあなた |
「あ〜、それはちょっとダメかな〜〜〜」 「え〜、そうなのか〜?」 「うん、ダメですね〜〜」 彼らが身を置く座卓とは対極の位置に、グダグダな戦いを繰り広げる比較的初心者寄りの卓がある。 「…こ、降参します……もう勘弁してください…」 「く……義がここで屈するというのか…」 「あの…利休殿……三成殿が欲しているのは茶器ではないと思います」 「え?」 降参する時、ぐったりした幸村は、肩からその場に崩れ落ちた。 「三成殿が欲しているのは…」 利休が視線を動かす。 「もし。伺いたいのだが」 「なんだ」 「石田殿が勝者になった時、あの茶器の所在は何処へ落ち着くのであろうか?」 「……茶器? え、茶器って何の話だ??」 何とも言えない空気が、卓に舞い降りた瞬間だった。 「…私は茶器が欲しい。隣の女性は…興味がないが…茶器の行方は…」 「お前に譲ってやろう、勝手に持って帰るがいい」 三成の言葉を受けて、利休はいい笑顔で棄権した。 「三成〜、頑張れ! 義が付いているぞ!」 「吉継殿、頑張ってください!」 「石田殿、頑張りなされ」 茶器目当ての利休も三成への応援を欠かさない。 「毛利家から代表で参りました。宜しくお願いします」 「徳川家を代表して参りました、秀吉殿! 家康様がよろしくと仰せでした!!」 小早川隆景と藤堂高虎―――天下人一番近いとされる男に、仕える主家を可愛がってもらいたい二人組。 「挨拶が済んだらさっさと帰れ」 「殿、余裕失い過ぎじゃーないですかね?」 「やかましい」 背後のもう一つの準決勝戦卓に付いている左近が苦笑している。 「うの」 では三成のついた卓がどうなったかと言えば、一言で言って泥仕合になった。 『これ…一体いつ終わるんだ??』 涼やかな笑顔の隆景の蟀谷で血管がピクピクしている。 『こいつらは…なんでさっきから俺を飛ばす?』 それは三成の手札が1枚だからである。 『くそ…左近め…と一緒に茶を飲みおって……吉継! お前もなのか!!!』 まるでそこに居ない人のように順番を飛ばされ続ける三成があくびを噛み殺す。 「三成さん、頑張って〜」 「何をどうやって?」 本来なら心から嬉しい声援のはずだ。 「殿、そこは素直に喜びましょうよ」 「どうやって??」 伏せられた札の山を使い切って、場に出そろった札の一番上だけを残して札をシャッフルして山札を形成すること三回、ようやく機は訪れた。 「上がりだ」 「あ!」 「おのれ、石田ァ!」 謎の潰し合いを続けていた隆景と高虎の攻撃をすり抜けて、三成が一抜けした。 「お疲れ様です」 流石にあれは可哀相だったと幸村に労われた。 「はぁ……一体何だったんだ…今の戦いは…」
「でも良かったですね、隆景さんって人と高虎さんって人が潰し合ってる反面、利家さんと清正公さんもお互いに 俯瞰で全てを見ていたの言葉を受けて、三成はそれもそうかと頷いた。 「ぐぅ!!!」 悔しそうに地面を殴りつける高虎の姿を見ながら、は冷や汗だった。 「いや…ただの遊びでそんなに悔しがらなくても……」 「まぁ、長丁場でしたしねぇ。集中力も切れて不思議はないでしょ」 左近が苦笑し、幸村が話題を変えた。 「次は決勝ですね、どのような結果になるのか、楽しみです」 善戦を讃えるように互いに握手してから卓から利家、清正、隆景が離れる。 「続いて決勝戦になりますが、ここで1時間の休憩を挟みます」 想像以上に長丁場だった試合を考慮して、が休憩を宣誓した。 「…ええと…次回があるか分かりませんが、次回頑張りましょう〜」 が褒賞席から高虎を励ました。 「はい! 次こそは!!」 必要以上に大きな声で返事をしてから観覧席へ捌けて行く高虎。
試合開始の銅鑼が鳴る前に、三成はを一度見上げた。 「開始!」 号令がかかり、決勝戦の火蓋が切って落とされた。 『ん? あれ? なんだろ…この違和感』 自分が鍛えるから強くなるとは言った。 『え、あれ?』 だが全ての認識を改めなくてはならないとは思った。 『嘘…三成さん、めっちゃ早いし…強い? え、何これ? どういうこと??』 小手先調べなんてものは一切ない。 「ほほ〜。こりゃ凄い戦いになって来たのう」 秀吉が身を乗り出す。 「くっそ、マジかよ」 「うわ、模様変わった」 思うように場を維持できない利家、清正が山場再形成のシャッフルと同時に降参した。 「お三方ノリノリですねぇ」 「…まぁ…どうという事もない」 「どうした、疲れたか?」 「棄権ならばいつでも受け入れるが?」 涼しい顔をして札を切り続ける三成、官兵衛、吉継。 「いやはや…良い勉強になりました。腕を磨いて出直します」 長期戦をいくら好んでも、頭脳派の三人を相手に両手に余る札を抱えては浮上は見込めまい。 「さて…ここからは…遠慮はいらぬな?」 官兵衛が三成を真っすぐにねめつけた。 「何のことでしょうか」 言葉とは裏腹に三成からの官兵衛への攻撃は止まない。 「吉継〜、棄権してもええぞ〜」 よく分からないが、何か尋常じゃない経緯が官兵衛と三成の間に発生していると察したらしい秀吉が声を上げる。 「善戦するだけしてみます」 本気の三成と官兵衛を相手に軍略を試せる機会など滅多にないと、吉継は微笑み続ける。 「えーと…必要ないかもしれないけど…吉継さん頑張ってー」 一応上司だし…とお愛想的な発想でが声援を送る。 「、愛弟子を叱咤しろ」 『でないと嫉妬で俺が狙われる』 卓から目を離さずに吉継は札を切った。 「いやはやすさまじいのう。互いに互いの手を読んどるわ」 「え、手持ちの札、分かってるってことですか??」 「おそらくのぅ。誰の手持ちにどの柄と特殊札があるかくらいの予測は付いとるじゃろ」 「えええええ!? 何それ!? もうウノじゃない戦いになってる!?」 正にその通り。カードゲームの形をとってはいるが、三人の応酬は心理戦の様相となって来た。 「はぁ…残念じゃのう」 「何がですか?」 白熱する戦いを見守りつつが問えば、秀吉はくしゃりと顔を崩した。今にも泣きそうだ。 「ここに半兵衛がおったら、もっと盛り上がったと思うんじゃがのぅ」 寿命ばかりは誰にもどうにも出来ないと小さく肩を落とす秀吉に、かけてやれる言葉をは持ち合わせていない。 「私がおりますれば、豊臣の世は安泰ですがご不満ですか」 気持ち硬い声が官兵衛から漏れた。 「ちゃうちゃう! 早期決着が見たいんじゃないんさ! おみゃーさんらと戦う半兵衛が見たかったんじゃよ!」 裏表のない回答に、官兵衛は満足そうに寄せた眉を緩めた。 「…全く、卿らは抜け目のない…」 一瞬の隙がこの二人相手では命とりだとばかりに官兵衛は顔を引き締める。
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