景品はあなた |
「くー。官兵衛さんは手強いなぁ…何時か官兵衛さんにぎゃふんと言わせてやるんだから」 「ぎゃふん」 「そういう感じじゃなーい―!」 棒読みで答えた官兵衛に、が突っかかり、あっさり返り討ちにされた。 「しっかし…三成は安定しないのう」 分かっていて言っているのか、そうではないのか怪しい秀吉の言葉を受けて、三成の視線が微かに泳いだ。 「それは…その…」 珍しく言葉に詰まる三成のことを視線の端に留めもせず、は己の手の中の札を切った。 「大丈夫だよ、三成さんは慣れてないだけ。 「何?」 「え?」 三成だけでなく、卓を囲む皆がの言葉に一瞬固まった。 「得手不得手ってあるとは思うんだけど、三成さんは明らかに理系だもん。 の言葉を受けて三成がどんな反応をするのかと、皆の視線が三成に集まった。 「……その……俺は…」 「三成さんが、嫌じゃなければ…の話ですけど」 「嫌じゃない…よろしく、頼む」 「はい。楽しくゲームできるようになりましょうね〜」 軽い調子では言い、最後の一枚を場に切って、上がった。 「あ、ああ。そうだな」
今回も今回とて周囲からの宛の攻撃の防波堤になり切った三成は、親しい者が見たらくすぐったさを覚えるような小さな笑みを浮かべて、の申し出を飲んだ。
「こんばんは、そしてお邪魔します〜」 「あ、ああ…楽にしてくれ」 その日の夜、石田邸の三成の私室にがお手製のウノを携えてやってきた。 「マンツーマン指導だと混戦では役に立たないかもしれないですが、三成さんほど頭のいい人なら 「うむ」 「やってて気が付いたんですけど、三成さんは攻撃系に弱いかもしれませんね」 の代わりに20枚分の札を引き取った時のことを言っているようだ。 『…まぁ…あの時手の中に『肆』を持っていはいたのだが…そういう事にしておくか…』 二人向かい合わせで手持ちの札を切りながらウノの戦略について話す。 「…っと、結構いい時間になりましたね。今夜はこんなもんで切り上げますね」 「ああ、そうだな。ご教授感謝する」 丁寧にお辞儀をする三成に、は笑顔をもって「お粗末様」と答えた。 「もしよかったら、また明日の夜でもどうですか?」 「いいのか?」 「ええ、勿論! 三成さんがウノ楽しんでくれてるの、私も嬉しいから」 「そうか?」 「うん。秀吉様達にやられ放題だったから、嫌になっちゃったらどうしようかとちょっと心配だったんです。 「ああ、楽しいぞ。俺はあまり態度や顔に出る性質ではないが…とても楽しんでいる」 「本当ですか? ならよかった!」 「明日の夜、また同じ時間に…どうだ?」 「ええ、是非! それじゃ、お邪魔しました。それとお休みなさい!」 軽い足取りで離れに戻ってゆくの背を見送った三成は、自室に戻って襖と雨戸を締め切ると一人で声を殺してガッツポーズした。 『よっし!!!!』
にバレぬように初心者の振りをするのは多少面倒だが、その面倒を甘んじて受け入れてしまえば、あれだけ難渋していた二人だけの時間を堪能し放題だ。 「出来うる限り、遅々と精進するとしよう」
が目指すのは三成の脱!初心者だが、三成が目指すのはを凹ませない程度に勝ち、をニコニコさせて、二人きりの時間を出来うる限り長く持続させることだ。
「秀吉様、マジでハマったんですね…ウノ…」
何時の間にか職人に言いつけて花札と同じ薄さのウノを作ってしまい、世に流通までさせていた秀吉のハマりっぷりにはドン引きだった。しかも自分がハマるだけでは済まさず、世にウノを奨励し始めてしまったから始末が悪い。 「折角だから三成さんも参加しませんか?」 どれくらい腕が上がったかを知るのも一つの手だと言ってくれたには申し訳ないが、興味がない。 「残念だ、開催側の任さえなければ参加したのだがな」 「そっか〜。三成さん運営スタッフなんだ」 「ああ、本当に残念だー。是非とも参加したかったのだがなー」 「殿…棒読みが酷いですよ」
から直接ウノを教えられた豊臣の将で参加しないのは三成くらいなものだが、三成のウノへの情熱はあくまでありきなのでしょうがない。 「どうも! 総合審判の任を仰せつかりました! 木花咲耶です! 試合会場を見渡せる席から宣誓したは、座る席を間違えた。 「ちょ!?」 「御嬢さん!?」 「な! 何故そんなところに!?!」 「え、マジか!?」 「えええええ!?」 「…正気なのか…」 参加者全員が二度見せずにはいられなかった褒賞席。 「ねぇ、お前様。あの子、座る場所間違えてるよ? 教えてあげなくていいのかい?」 こそこそと耳打ちをしてきた特別観覧席のねねに、秀吉もにんまり笑顔で答える。 「なぁに、大丈夫じゃて。三成が参戦したしのぅ」 「あら、あらあらあら、そうなんだね! 頑張るんだよ、三成〜」 「いい所、見せるんじゃぞ〜!」 秀吉夫妻の声援を受けて、三成は引き攣った。 「そっとしておいて下さい」 「緊張させないで〜!」 公平を掲げねばならないはずのが声を上げている時点で相当ダメな感じがする。 「三成さん、ガンバですよ〜!」 「あ、ああ…」
これで参加者の中に左近、吉継、官兵衛が居なければ三成とて本気になったりはしないのだが、残念ながら彼らは本気で参加しているから気は抜けない。 「それでは本大会の予選を始めまーす」
各地の予選を勝ち上がってきた参加者が老若男女入り乱れてかなりの数になっている為、予選の座卓は20台。 「あーーー!! くっそー!! きたねぇぞ!!」 「勝負の世界は非常なのだよ」 予選席の一角で吠えるのは正則で、正則を下したのは三成だった。 『…ははぁん、殿本気を出してますね?』 隣の卓を囲む左近が顎を擦り、最寄りの卓に居た幸村も目を見張った。 『正兄と三成さんは兄弟みたいなもんだものね…運に助けられたかな??』 審判業をこなしつつ、愛弟子認識の三成の戦績には気を配る。 「続きまして二回戦になります〜!」 名だたる将の勝ち抜けを、秀吉はそんなもんだろうと見守る。 『なんだ? あの男…いやにを見ているな…』 褒賞席に熱い視線を送って憚らない利休を、三成が目端に留めた。
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