暗闇の中で見つけた恋 - 三成編 |
「…ん…」 「目覚めたか」 「あ、三成…? 私、どれくらい寝てた?」 「さぁな…知るか」 「もう、相変わらず素っ気無いんだから…」 抱き、抱かれたままで交わす会話に、互いにほんの少し安堵した。 「うーっ、寒い……やっぱ、人肌じゃ限界あるよね」 「火なら入れたぞ」 「お。流石〜。でも……やっぱり寒い〜」 「お前という奴は…全く…どうしてそう…」 緊張感のない声に、呆れたような声を返せば、は三成の腕の中でこれ以上はない失言をぶちかました。
「そう言わないでよ…これでも私、現代っ子なんだよ? こんな状況に慣れられるわけないじゃん。 「それはどういう意味だ?」と問い掛けるだけの余裕も持てなかった。 「悪かったな、俺のような男で」
低く押し殺した声の奥には、片思いに狂い、焦れに焦れ続けた男の危険な衝動が宿る。 「え? い、いや…そんな、別に三成が嫌って訳じゃないのよ?」 「ほぅ? だがあいつの方がよかった訳だろう?」 「え? ええ、まぁ…そうねぇ…」 「きっと温かかっただろうな〜」と想像して思わず頬を緩めれば、三成の視線が鋭さを増して行く。 「お前も大概ろくでもない女だな」 「ハァ? 何よ、それ。人が恥ずかしいの我慢して体温分け与えてあげてたってのに!!」
「お前に言われたくない。第一それならこうして今返してやったんだ、帳消しだ。 通常よりもずっとずっと低い声に不審を抱き、は視線を動かした。 「うっ…そ、それは…悪かったと思ってる……ごめんなさい、でもって有り難う…」 上擦る声で謝罪と感謝を述べてみたが、後の祭りだった。 「ほぅ」 今正に、嬲りものにする手法を考えています、と言わんばかりの笑みを口元に浮かべるだけだ。 「い、いや、その…三成の事だって頼りにはしてるのよ?! うん」 「で…?」 「でっ? って言われても…」 「上辺の謝辞などいらぬ」 「上辺じゃないってば」 「どうだかな? 現に、今自分の口で言ったばかりではないか。 「だって慶次さんって体温高いじゃない。体も大きいしがっちりしてるから、寒さからも護ってくれそうだし…」 弁解するつもりで紡いだ言葉は、決定打でしかない事には気が付いていない。
「あ、でも大丈夫よ? 三成だってそれなりには温かいしね。いないよりいた方が安心するって思ってる。 徐々に声が尻すぼみになる。 「寒いと言ったな」 こくこくと頷いて答えたの視線は、自分の顎を掴む三成の腕に釘付けになっている。 「そうか、寒いか」 なんだろう? 何をするつもりなんだろう? 「…?!」
想像とは全くかけ離れた行動を起こされて、混乱で目を丸くすれば、顎にかかった三成の腕が力を増した。 「な、な…! いきなり、何するのよ!!」 羞恥で頬を真っ赤に染めて睨みつければ、を見下ろす三成は冷徹に言い放った。 「温めてやろう。人肌なればこその無限の熱さ、お前の最奥に刻んでやる」 「えっ!? ちょ、それどういう意味…!」 問い質し、悲鳴を上げて抵抗するよりも早く、三成の腕がの腕を掴んで畳の上へと縫い付けた。
強引に暴かれて、三成の言葉通り体の最奥で脳が焼けて蕩け堕ちそうな熱さの快楽を味わった。 『俺を見ろ』 注がれる視線が、何度も何度も、それを望んだ。
『何故、俺じゃない? どうしてだ?! 俺はこんなにも……こんなにも、思っているのに…… 胸に抱えた深い思いに翻弄され、狂い、凶事に手を染めながら、同時に自嘲する。 『…当然か、こんな下衆な行為をする男を……お前が愛すはずがない……。 快楽を煽る為の言葉を吐き続ける彼の眼差しは、まるで泣いているかのようだった。 「…三成……どうして……なんでなの…?」 そんな三成の目をずっと見ていれば、自ずと悟った。 『…私、本当に馬鹿だ………全然、分かってなかった……三成の事も、気持ちも……』 許せるものではない行為を彼一人のせいにして責め詰る事は出来ない。 「…三成……」 「俺は、謝らんぞ……絶対に……悪かったとも思ってない」 そう言いながら、三成の視線は後悔に揺れていた。 「溺れろ、堕ちろ! 抗わずに、溺れればいい!!」 『頼む…そんな目で見ないでくれ……頼む、溺れてくれ、俺に堕ちてくれ……もう取り戻せはしないのだ…』 今やきっかけになった慶次の事はどうでもよかった。 「俺だけ見ればいい、他の男のことなど…見る必要はない! 溺れろ、」 くたくたになった体でを三成に預け、彼に好きなようにさせながらは目を閉じた。 "俺にはお前を元の世界に帰してやる力はない。だが俺にだって与えてやれるものはあるんだ" こんなに思われたことが、求められたことがあっただろうか。 『そっか…三成だからだ…』 最低な行為を施されて、軽蔑しないでいられるのは、相手が三成だからなのかもしれないと漠然とだが思った。
『三成だから……嫌じゃないんだな………三成は屈折してるけど…嘘とか人を陥れる事は出来ない人だもの…… ふぅ…と一つ息を吐いて、は口を開いた。 「………もう、どうして? どうして…素直に言ってくれないの? 肩に顔を埋めて求め続ける三成が顔を上げる。 「……?」
「言葉って、大事だよ? 言葉でしか…伝えられない事もあるの……それが……欲しい時だってあるの…。 「俺に…それを言えと言うのか? 今更………許されると…?」 慈愛に満ちた微笑を湛えて、は一度だけ頷いた。 「だって……意地悪じゃ…ないんでしょ? 三成、本当の気持ち……教えて? お願い…」 揺れる瞳には快楽からきた涙が滲む。 「…愛してる…」 掠れた声で訴えた。 「愛してる、愛している。、愛している……俺の、ものだ……誰にも…渡さない……愛してる」 それから一晩中、耳元では三成の声が響き続けた。 「……今度は、こんな跡付けないでね?」 三成の背にが自ら回した手首には、彼女を最初に押さえつけた時についた三成の腕の跡がくっきりと残っていた。
どうっ!! と轟音を上げて、填め込まれていた板戸が吹き飛んだ。 「何があった?」 「何もない…心配は無用だ。それ以前にもっと察しろ」 が起きていたら間違いなくお前がそれを言うのかと突っ込んだところだろう。 「ここはどこだ?」 三成の問いに、半蔵の視線が僅かに呆れを含む。 「仕方ないだろう、俺はあの室で目覚めたのだ」 「そうか」 言葉少なく答えた半蔵は、穴の中へと歩き出しながら言う。 「その部屋は隠し通路に誂えられた室の一つだろう。こうした道は仕掛けで開くように出来ている」 「なるほどな、では見つけられるはずもないか」 無言の肯定を半蔵がして、誘導するように先を歩いた。 「まぁ、いい。元より想定の内だ」 きりりと顔を引き締めて、三成は前方を見据えた。 「ああ!! 姫様じゃ!! 姫様が戻られたぞっ!!」 最下層で従事していた民が人影に気が付いて視線を移した。 「湯と床の支度を急げ。体温が気がかりだ」 を抱きかかえたままで一階へと上がった三成は、すぐに指示を出し始めた。 「三成様」 「か、頼む」 「はい」 先に報を聞いて駆けつけていたにを預けて、そこでようやく三成は身を翻す。 「殿!! ご無事で何よりだ」 「三成!! 無事だったんか、様はっ?!」 「秀吉様、ご心配をお掛け致しました。 「そうかそうか、何よりじゃ!!」 「はっ」 知らせを受けて駆けつけた左近と秀吉の前で、三成は簡潔に述べた。
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