立花が作る道 |
世の中には一難去ってまた一難という言葉がある。 「おい、からくり、どうなっている?! これでは追い付かれるぞ!!」
第四から第五の関にかけての逃亡は、彼らにとっては想像以上に危険を伴っていた。 「…なんだと…? 動力が切れるだと?! どういうことだ!!」 次に浮かび上がった文字が伝えた事は、の仕様だった。 「馬鹿を言うな…お前のようなからくりが他にもまだあるというのか…?!」 驚愕する三成の視野を淡い翡翠色の文字が埋め尽くして行く。
「何? お前は、試作機だと?! では、何故…?! 時空に歪みが生じた?! ええい、分からぬ!!
カリカリ来ているのか、それともそうしていないと意識を繋ぎ止める事が困難なのか、やたらと三成はがなる。 「もう、三成様!! もう少し落ち着いて下さいまし!! 焦りますわ!!」 車体を左右に振りつつ追撃を交わしながら道を急ぐにも余裕はない。 「それに、そんな事よりも動力が…」
めい一杯踏み込んでいるのに思うように加速しないからくりに焦り、苛立ち、現状に恐れを抱いているのは何も三成だけではない。もまた、長時間の運転で精神的な疲労を抱え始めているようだった。 「覚悟!!」 「っく、もう来たか…!!」 追尾だけでなく坂落としで進路に現れた騎馬隊に三成が舌を打つ。 「危険ですわ、三成様!! 戻って下さいまし!!」 「この程度の速さであれば、どうとでもなる。何より、俺がやらねば突破は出来ぬ」 三成が何をしようとしているのかを判じたが不安そうに声を張り上げれば、彼は素気なく言う。 「動力はどうすれば戻るのだ!!」
不安定な足場で一人で奮闘する三成の代わりに出来る事はないのかと問いかければ、フロントガラスに代わりサイドガラスに乱れた翡翠色の文字が浮かぶ。 「雷?! そなたは雷で動くのか!?」 肯定の文字が現れる。 『駆け続けろ…五の関を越えれば……へはすぐだ……そこまで辿りつけば、きっと…きっと秀吉様が…』 騎馬の上から槍を、刀を、向けて来る武者との攻防で大きくバランスを崩した三成の体がほんの一瞬、宙に浮いた。 『くっ!!』 あわや転落死かと瞼を閉じた刹那、の車体に強烈な雷光が走った。
三成が屋根の上で曲芸にも似た迎撃を始めた頃、時を同じくして車内では。 「雷?! そなたは雷で動くのか!?」 肯定の文字を見た家康の判断は早かった。 「うあああああ!!」 痛みで意識を取り戻したァ千代に向い、彼は雷切を握らせると希った。 「済まぬ、ァ千代!! しかし、他に方法がいなのだ!! そなたの力を貸してくれ!!」 家康の判断の先にあることを察したが動く。 『ここに番えろということか』 家康が横たわっていたァ千代を抱き起し支えた。 "何時かァ千代にもきっと分かる時が来るよ" 不意に元就の声が脳裏を過った。 『ありえぬ…元就は…もう……私の前には……』 「ァ千代!! 頼む!! この通りじゃ、様を救ってくれ!!!」 家康が請願し、頭上から聞こえるのは打ち合う金属音。 「大丈夫、きっときっと平気ですわ。皆で帰ることが出来るはずです…さん、頑張ってくださいまし」 滲む視野の中で時折鮮明になるのは不安げな女子―――の横顔だ。 「この時の為だと思う瞬間が…きっと来る」 『そうだ……武士は、弱き者を…守るものだ…』 素直に帰順する気になれずにいる自分に、は誠心誠意接してくれていた。 「唸れ!! 雷光!!!!!!」
瞬間、車体全体に走った雷がブラックボックスを介して、稼働に適したエネルギーへと変換されて行く。
「ぐあっ!! な、なんだっ?! 一体?!」 背に強い引力と衝撃を感じた三成が唸った。 「おい、どうなってる?」 弾き落されたと思ったのに屋根の上に貼り付けられた状態で疾駆する現状に疑問が生じるのは当然だ。 「失礼、マグネット・サークルの稼働率が高過ぎたようです。咄嗟でしたので」 彼の問いに答えたのは、少しも悪びれているように聞こえない淡々としたの声。 「腹は膨れたのか」 「お陰様で」 「そうか、僥倖だ」 「自在に動けるように微調整します。露払い願います」 「引き受けよう」 全身に掛った重力が緩む。
「マスター、お疲れ様でした。以後はお任せ下さい」
車内に迸った閃光が落ち着くと同時に、荒々しく揺れながら走っていた車体が安定を取り戻した。 「瑞玉霊神、後しばらくの辛抱です」 「分かって…いる……立花に…任せよ…」 慣れぬ名で呼ばれたァ千代が、ぼそぼそと答えた。
「三度雷光が走った後、瑞玉霊神にしばしの休養を。心拍数が上昇し過ぎています。 「あい分かった」 それぞれがそれぞれの役割に従事し動き出す頃、疾駆するのセンサーは第五の関へと続く砦の異変を察知した。 「治部少輔殿」 聞きなれぬ役職名で呼ばれて三成が、眉を僅かに動かした。 「これより三つ目の曲がり角で飛んで頂けますか」 が無茶な提案を抑揚のない声で提示すれば、三成の眼前に幻影が現れた。 「ホログラム―――立体映像で構成されていますが、遠方で起きている現実です」
逃走の妨げになっている砦の全体像が浮かび上がり、二つの跳ね橋が上がっていることを教える。 「無茶を言う」 「プランBを試しますか? 成功確率は一割を切りますが」 「いや、いい。丁度体も温まってきたことだしな」 「なによりです」 タイミングを計り、一つ目の曲がり角を通過する。 「なるほど、着地点はあそこか」 跳躍地点まで、後50M。 「屑が」 アーツで一騎潰し、続いて突き出された槍の柄を脇腹と腕で捕えた。 「治部少輔殿、準備を」 残り30M。が急かす。 「随分簡単に言ってくれるな、こっちは手負いだぞ。忘れてないか」 「モルヒネをご用意しますか?」 「なんだ、それは」 残りの騎馬と打ち合いながら問う。 「強力な麻薬です、鎮痛効果があります」 「いらん」 扇を広げその場で弧を描くように舞いながら、隙をついて投爆した。 「では、何をご用意しますか?」 「何もいらん、もうお前は喋るな。時が来たら、知らせろ」 「集中できぬ」と低い声でもらせば、は素直に従い沈黙した。 「治部少輔殿、準備を」 10M。 「目障りなのだよ!!!」 9M。無双奥義が炸裂した。 「愚かだな!!!」 4M。数多の爆撃が、ダメ押しの一手となった。 「治部少輔殿、来ます」 の声がする。 「流石です、治部少輔殿」 ホログラムが消える。 「まぁ、どうということもない」
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