景品はあなた |
周囲からの助言を受けて、三成は自分の生活習慣を変え始めた。 「そんなに少なくて、もつんですかい?」 昼食に運ばれてきた膳の上に並ぶ茶碗の大きさに左近は目を丸くした。 「これでいいらしい、は三時には茶菓子を食べるからな」
一度にがっつり食べるのではなく、日に数回に分けて食べていると吉継に言われて、三成は初めての生活習慣を知った。買い食い仲間の清正や正則に聞けばすぐに分かりそうなものだが、本人にその閃きはない。 「殿、ご機嫌ですねぇ」 「やかましい」 「私からしたら皆さんよくそんなに食べてて太らないな〜って思います。羨ましいくらい」 が具がたっぷり入ったみそ汁をすする。 「三成、ほっこりし過ぎだぞ」 「うるさい」 下手に保護者を誘うからからかわれるのだが、まだ自分一人で誘う勇気が出ない。 「ご馳走様でした〜」 今日も食べるの姿を横目に収めるだけで昼食の時間が終わってしまった。 「吉継さん、今日の午後なんですけど私自由時間貰ってもいいですか?」 担当するべき仕事は片付いていると、膳を片付けながらが切り出した。 「ああ、構わないが、どこへ行く?」 豊臣家配下としての立場を確立したものの、やはりどこか危なっかしいから目は離せない…というのが、豊家に身を寄せる将の共通認識だ。 「清正公さんと正兄と幸村さんと道場で、ちょっと」 「ふむ…興味深いな。俺達も同行して構わないか?」 つるむメンツを聞く限り不安はないが、何をするのかが気になると吉継は素直に問いかける。 「いいですよ〜。でも、お仕事は??」 「まぁ、たまには息抜きもいいでしょう。ね、殿?」 「そうだな」 吉継だけでなく石田主従もついてくるのか。が大きな瞳をパチパチさせる。 「まぁ、平気…かな?」 これで三成だけがついてくるとなると、清正と正則と揉めそうだが、吉継や左近もいる事だし平気だろう。 「約束の時間は何時だ?」 「二時です。三時から虎屋さんでお茶します」 「分かった」 善は急げとばかりに、三人は自分達の膳の上の食事を平らげた。
「お邪魔しまーす」 手荷物を抱えたを筆頭に、清正と正則が懇意にしている道場の門を潜った。 「お、よく来たな」 「いらっしゃい」 すっかり顔馴染みになっているらしい師範代と門下生が、の後方の面々に少し面食らう。 「今日はどういった指南を受けられるのかが楽しみだ」 約束の面々はもう来ていると言い、師範代はを道場の中へと案内する。 「いやぁ…あれを修行と言っていいのかは甚だ疑問なんですけどねー」 からからと笑いながら進むは、途中で着替えがあるからと道場の納戸を拝借した。 『道場着の代わりか?』 柔術でも習っているのかと思ったが、全然そういうわけではないらしい。 「あらら…? なんか豊家の重鎮大集合??」 の率直な感想に秀吉はからからと笑った。 「まー、気にせんでええぞ!」 「はぁ…じゃあ、そういうことで…」 持参した包みを開いて道場の畳の上には広げ出した。 「始めるか」 何故かやる気満々になっている清正に対してはストレッチをしながら言った。 「かかって来い! 今日も返り討ちよ」 肩、腕、足と関節を伸ばして、柔軟性を高めたら、唐突には言った。 「最初はぐー」 「「じゃんけんぽん!!」」 清正との声が重なって同時に双方が手遊びを行う。 「じゃ、私正兄と組む」 「では私は清正殿とですね。宜しくお願いします」 礼儀正しくお辞儀して来た幸村に対しても軽い礼を返した。 「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」 「始める前に、どうであろうか? 本日は見学が多いようだし、手伝いを頼んでは?」 道場の師範代に提案されて、はそれもそうかと頷いた。 「お手伝いやってくれる人〜」 「はい!」 速攻で秀吉が挙手した。どっと笑いが起きた。 「ええと、じゃ簡単なルール説明をしますね」
広げた紙の四方を文鎮で清正達が押さえている間には秀吉に色が記されたサイコロを手渡しながら簡単なルール説明をする。 「よっしゃ! わしに任せるんさ!」 「宜しくお願いしまーす」 「じゃ、始めるでー」 先攻後攻を再び清正とがじゃんけんで決めて、先行は清正が取った。 「赤、右足」 コロコロと賽を振って秀吉が宣言すると、清正が動いた。 「青、左足」 続いて正則が動く。 「緑、右手」 幸村が動いた。 「黄色、左足」 何が起きるのかといぶかしむ間に読み上げは進んでゆく。 「次、いくぞー」 秀吉がにんまり笑って賽を振った。 「ちょ…正則! 邪魔だ!! どけ!!」 「はぁ?! 無茶言うなよ」 「清正殿…貴方の足も相当…邪魔なんですが…」 清正が手を伸ばしたい場所の手前に正則の手がある。 「なるほど…ガタイのデカい正則を選んだのはこの為か」 外野がほほうと頭を縦に振っていた。
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