景品はあなた

 

 

 その後、色事においてはお子様なのか何なのか、には恐ろしく自覚もなければ学習能力もない事が分かった。
大工から分けて貰った木材で作ったという木片での遊びは、観戦者を巻き込んでの遊びになったが、の行動は男の目から見ると、有り得ぬ奔放さだった。
 人数も多いから組対抗より個人戦とした為、代打の用意が出来ない。その為、の行動を責められない部分はあるにはあった。が、どう諫めたものかと思い悩む男達の心中は荒れに荒れた。

「というか、続かないから正則、お前外れろよ」

 ジェンガは54本の直方体のパーツを縦横に3本ずつ組み上げた18段のタワーをいかに崩さずに、順々にパーツを組み合わせ直して上に伸ばしてゆくかという遊びだ。
この遊びを始めて、2回目で正則は参加者全員から参加不能のレッテルを貼られた。
 正則は集中力不足で、あっという間にタワーを倒すのだ。
自分の番になって3回以上タワーを維持できない男は参加者から排除されても文句は言えなかった。

「まー、人には向き不向きがあるからのう」

 流石にこれは秀吉、清正が圧倒的に強かった。
それに計算事に利がある面々が続く。

「一度触ったパーツは引き抜いて、設置し直すまで離したらダメですよ?」

 建築ガチ勢と、計算事に強い面々が挑戦するジェンガは、正則、幸村―――ツイスターゲームの影響で指先の震えが止まらない為、自ら棄権した―――を除くと、段々おかしなことになり始めた。きっかけは官兵衛だ。

「こうしても良いのか?」

 官兵衛は何故か引き抜いたパーツを横ではなくて縦に置いた。

「え、マジ?」

 は意表をついた攻めの手に瞳を瞬かせたが、手強い面々とのジェンガが面白くなってきてしまったのか、それはなしだとは言わなかった。
それ故か、段々と皆が皆、攻めた置き方をするようになった。
 計算事に強いにはタワーのバランスが、一本の糸を上から下に通した一枚の絵のように見えるようで、際どい場所しか引き抜かないし、変な位置にしか置かない。
 息を殺して皆が見守る中、今回も絶妙な位置のパーツを引き抜いて上に乗せようとする。

「あ。届かないや…」

 官兵衛のせいで縦にパーツを立てる者が増えたせいで、やたらと高くなったタワーにが困った顔になる。

「えーと…これは仕方ないかな」

 諦めるのかと思いきや、はパーツを持ったままで正則を呼んだ。
四つん這いになれと言うならまだ良かったのだが、は何を考えたのか、正則をしゃがませて彼の肩を跨いだ。

「ちょ!」

 流石に左近が慌てる。
甚兵衛のせいでの白い脹脛が惜しみなく晒されると共に、正則の脇に絡んだ。

「よいしょっと」

 兄妹感覚の二人には、この態勢に違和感はないようで、正則はを肩車したまま立ち上がった。
無言で拳を振り上げた三成を清正が羽交い締めにした。
吉継が「言っておく、後できちんと自覚させるから」と横から宥め続ける。
 遊びに真剣なは小さく深呼吸して最上部にパーツを乗せるべく手を伸ばす。

『……揺れるな…揺れるなよ〜〜〜』

 パーツが最上部に重なりかけた瞬間、道場に新たな客が現れて緊張を破った。

「おい、秀吉いるかー?!」

 前田利家だった。
思い切り道場の引き戸を横に叩きつけた反動で、畳が微弱に揺れてタワーが崩れる。

「あ!」

「「ああああああ!!!」」

 最高傑作だったのにと嘆くのは建築ガチ勢の秀吉と清正だった。

「うーん、これも没収試合??」

 正則の肩の上で肩車されっぱなしのがぼやいた。

「それはそれとして、降りましょうか? 御嬢さん」

 左近が手を差し出して、正則が腰を落とした。
導かれるまま左近に手を借りながら床に降りたの両肩を、三成が鬼気迫る勢いで掴んだ。

「いいか! 嫁入り前の女子が簡単に股を開くな!!!」

「え、肩車駄目ですか?」

「だめだ、絶対に駄目だからな? 分かるな? 分かったな?」

「アッ、ハイ」

 逆らうとぶっ飛ばされそうだと感じたは素直に頷いた。

「…となると…皆で出来る遊びと言ったら、後は…何があるかなぁ…」

、かるたとか花札のような札遊びの類はないのか?」

 札遊びであれば体が誰かと密着することはないはずと予測して、吉継が問いかけた。
問いを受けたは、簡潔に答えた。

「ありますよ。じゃ、利家さんも交えて皆でウノ、やりましょうか?」

「うの?」

「実はこんな風に誰かと遊べたらと思って、作ってみたんですよね〜」

 は軽い調子で言いながら、お手製の板切れの束を持ってきた荷物の中から取り出した。
現代のカードゲームのように薄くは出来なかったが、麻雀のように座卓の上に並べればいいと考えたの発想は大変柔軟だった。

「あ、でも…利家さん…お仕事の用事とかだったかな?」

「いや、俺は秀吉に呼ばれただけだ」

「清正達がと珍しい遊びをするっちゅーんで、おみゃーさんもどうかと思ったんじゃよ」

 秀吉に言われて、なるほどと全員が納得した。
利家も珍しい遊びという響きに興味が駆り立てられたのか、敷居を跨いで道場に上がってくる。

「ええと、皆で遊べるけど台があった方がやり易いかな?」

 に言われて門下生が食堂から大型の座卓を運んできた。
部屋の中央に据え置けば、四方八方に将達が腰を下ろした。
 は遊びだと言うが、が皆に見せる珍しい遊びの数々は、なかなかどうして侮れない。
ツイスターは体力を使った陣取りゲームだったし、ジェンガは頭と集中力を鍛えるゲームだった。
ならば今度のウノという遊びは一体どんな側面が求められるのかと、皆、内心ではドキドキだ。

「ルールの説明をするので、皆最初の一回はお互いの手札を見せながらやりましょうね?」

 は百枚近い木札をジャカジャカと音を立ててかき混ぜる。

「本当は花札みたいに薄い紙で遊ぶゲームなんですけど、私には作れなかったので、この木札で我慢してくださいね。
 麻雀みたいに皆さん手元に立てるなりなんなりして下さい」

 お手製だけあって、用意された木片には、太陽(赤)・月(青)・花(黄)・竹(緑)の絵が描かれていた。
札の中央に1から9までの数字が記された札が各2つずつで72個、0が各1つで4個。更にそこに異なる漢字―――『飛』『逆』『二』『肆』『変』『全』と書かれた札が各2つで合計24個、総合計で100個だ。

「まずこうしてよく札を混ぜたら、それぞれの持ち札を配りますが…ええと、参加者の方は挙手で」

 ざっと手が上がった。
参加が幸村、清正、利家、秀吉、吉継、そして三成だ。
 今回正則は喉が渇いてお茶を飲もうとしていた為、見学に落ち着いた。
左近は状況を見てから参加するかどうか決めると言い、正則同様、湯呑を掲げるに留まった。
官兵衛は端から見学の意思を崩していない。

「じゃ、配りますね」

 の手から各人に手札が7枚ずつ配られた。

「初回はルール説明なので、皆さん自分の手持ちを見せてください。親は私がやります」

 余った札をまとめて中央に置いて、上部から一枚ひっくり返して場に置いた。
始まりは太陽の文様に9が記された札だった。

「説明を始めますね〜」

 札を切る順番は時計回りでと宣誓してからは自分の手の中の札を取り上げた。

「このゲームでは、場に出ている同じ絵柄、または数字、漢字のある札を1枚出すことが出来ます。
 ローカルルールでは同じ数字なら色を越えて重ね出しも可能なんですが、皆さん初心者なので、
 今回は1枚づつで行きましょう」

 は自分の手持ちから場に札を置いた。太陽の文様の7が記された札だった。

「続いて幸村さんの番になります。幸村さんの手札には太陽の文様がないのですが、7があるので、7の札を切ります。
 幸村さんが月の7を切ったので、場には月の文様の札か同じ数字、漢字の札しか出せなくなります」

 ふむふむと説明を聞く面々が相槌を打った。
教えられた規則に沿って清正、利家と続いて、秀吉が顔を顰めた。

「ありゃ、わしの手持ちに出せる札がない」

「そういう時は山場から札を1枚引きます」

 「ローカルルールかもしれないが」と前置きしてからは言った。

「引いた札が出せるものであれば出してしまって構いませんがダメなら次回を待ちます」

「ふむふむ」

「これは俺も山札をとる流れか」

 吉継がそういい山札に手を伸ばそうとしたところでが待ったをかけた。

「吉継さんは場に出ている模様と同じ漢字の札を持っているので、それで対応します。
 漢字の札は皆さんご想像通り、特殊な札です」

 吉継の前に広げられた札の中から『飛』の書かれた札を示した。

「これはスキップと言って、出されると次の人が一回お休みになります」

 いい機会だから、他の特殊札の説明もするとは言った。
『逆』と書かれた札の意味はリバース、時計回りを逆転させる効果がある。
『弐』『肆』は次の人に強制的に山から札を引かせ、『変』は場の文様を変える。
『全』は全てに対応可能な最強の手札だと説明した。

「吉継さんがこうしてスキップを使うので、三成さんは一回お休みです。
 私の番になりますが、私には場の模様に適した数字の札はありません。
 代わりに『肆』の札があるのでそれを使います」

 『肆』の札は扱いが特殊な上に攻撃的な札だとは言う。
外野も段々との説明に真剣に耳を貸し始める。

「この札は肆の他に太陽・月・花・竹の模様があるので、出した者が好きな模様を指定できます。
 私は手持ちに花が多いので花を宣言、幸村さんの番になりますが、幸村さんは場に『肆』が出ているので
 特殊な対応を求められます」

「どうすれば宜しいのでしょう?」

「山から4枚札をとるか、自分の手持ちの中の『弐』、もしくは『肆』の札を出すかです。どちらにしますか?」

「『弐』を切ります」

 問われるまでもなく順番が回って来た清正が同じように『弐』を出し、利家が聞いた。

「これ、『肆』も重ね出し出来るのか?」

「出来ますよ」

「んじゃ、出すな。ああ、模様は竹で」

「お、ならわしも『弐』をきるわ」

 無言で吉継と三成が手持ちの『弐』を重ねて出した。
の順になる。

「はい、ここで倍の連鎖が途切れました。私には『弐』も『肆』もないので、ここでペナルティが発生します。
 『弐』は2枚、『肆』は先ほども言った通り4枚札をとらなくてはならない特殊札です」

 最初から皆の手札を見てそうなるように導いたのだろう、は涼しい顔をして山札に手をかけた。

「と、いうことは場に出ている特殊札の合計18枚を、連鎖が途切れた人が責任を取って引かねばなりません」

「え!」

「うわ!」

「マジか」

「これが小判ならなら大金持ちじゃのう」

 じゃらじゃらとの手元に増えた札を見て、皆がぎょっとした。

「これ、あれだよな。失敗すると自分が仕掛けた特殊札が自分に戻ってこないか?」 

「判断を間違えると痛い目を見るという事か」

「仕掛け時も見極めが肝心だな」

 

 

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