思わぬ拾い物 - 慶次編 |
曲がり角に駆け込んで、予感的中だとは顔面を抑えた。 「こらーーーっ!! あんた達よしなさーーーーいっ!!」 脅えまくるを助けるべく声を上げれば、ごろつきはを見て口の端に下卑た笑みを浮かべた。 「あ、様!? だめです、どうか構わずお逃げ下さい!!」 野太い腕に掴まれて、動く事が出来ないくせには懸命に訴える。 「離しなさい!! 今なら、見逃してあげるわっ!!」 ごろつきどもはの周りにまで足を進めて、の顔を覗き込んだ。 「何をどう見逃すって?」 「し、しらないの? ここ、君主様が変わったのよ。 腹に力を込めて、目にも力を込めて、叫んだ。 「へぇ、そうかい。でもお上に知れなきゃ意味ないぜ」 伸ばされた腕が肩に触れた瞬間、は相手の手と腕を掴んだ。 「なっ?!」 瞬間、男の巨体が宙へと浮いた。 『よし、出来る…大丈夫』 が抑えてたのは手の神経を麻痺させるツボで、男の手は狙い通り麻痺していた。 「早く、その子を離しなさい」 目に力を込めて静かに言えば、男達はたじろいだ。 「ひっ!! うわっ! ああああっ!!」 情けない事に男は悲鳴を上げた!! 「その子を、離しなさい!! いい加減にしないと、本気で怒るわよっ!?」 更に力を込めれば、男は更に絶叫した。 「さん、こっち来て、早く」 「は、はい」 脅えた様子での背へと駆け寄ってきたを庇う。 『さて問題は……ここからだわ……手を離したら……復活しちゃうんだよな〜』 冷や汗をたらたらと零しながら、悟られてはなるまいとばかりに押し黙る。 「お、おい…どうする…」 「どうするったって……こんなの話が違うしな…」 「に、逃げるか?」 「あ、ああ……でも…」 果たして逃がしてくれるものなのかと、の様子を伺えば、は言った。 「十数えてあげる」 「はい?」 「だから、今回は見逃してあげるって言ってんのよ!! それともやるのっ!!」 目に力を込めて睨み、一喝すればごろつきどもは我先にと駆け出した。 「いい? この町でまたこんなことしたら………今度は、全身動かなくなるまで……シバクわよ。分かった?」 「は、はい! はいっ! もうしませんっ! すみませんでしたっ!!」 泣き声の男の足から踵を外し、腕を開放した。 「は〜」 気が抜けたとその場に腰を降ろしたが見上げれば、もまた力を失って往来に座り込んでいた。 「様、様……申し訳ございませんっ!! 私なんかの為に…」 素直に涙ぐむ姿に、本当に可愛らしい人だなと思う。 「あー、いいのいいの。とにかくなんとかなって良かった」 照れ笑いするがの頬へと手を差し伸べようとするのと、の体が宙に浮くのとが同時だった。 「へ?」 「様!?」 「えっ、ちょっと、何、何?! 一体なんなのーっ?!」 一瞬の内に凄まじい力で引き上げられて、眩暈がした。 「慶次さんっ!! 助けてっ!!」 宙で絶叫すれば、慶次は迷わず近くにあった商店の看板をもいでの頭上目掛けて投げつけた。 「これはこいつが誰だか分かっててやってる狼藉かい? それとも…狙いはあの子の方かい?」 「さてな……ただの座興よ」 異形の男は慶次から視線を逸らし、と視線を合わせると陰湿な笑みを口元に貼り付ける。 「あ、や……やめて……やぁ!」 「怖いか? 我が……ならば、呼ぶがいい。最愛の男の名を…」 そう言われて、は唇を噛みしめた。 「女の子は丁寧に扱え!! この馬鹿っ!! 泣かせんなっ!!」 ぎらりと、人ならざぬ猛禽類のような目で睨まれて、恐怖を覚えた。 「喝!!」 慶次が吼えると同時に、を包んでいた緊張が解けた。 「ますます、粋じゃないねぇ。女を嬲って楽しいかい、あんた……その喧嘩、俺が買ってやるぜ」 を屋根の上へと降ろして、飛び降りる。 『どうしよう……体が重い……胸が…苦しい…』 肌につき刺すような冷気と身を焦がすような闘気。 「放してやんなよ」 「断る」 人質をとられているが故に、慎重になる。 「どこのどいつだ!! この家の膝元で騒ぎを起こす馬鹿はっ!! 儂自ら成敗してくれるっ!!」 「義と愛の力を持って不義の輩を成敗するーーっ!!」 その膠着を、往来の向こうから聞こえてきた複数の足音が突き崩した。 「二人とも、もう少し静かに…」 そこに幸村の声も混じった。 「…邪魔が…入ったか……」 慶次と相対する異形の男は、を更に持ち上げて、彼女の頬に顔を寄せた。 「何してんだ、この変態っ!!」 「さん、降りろっ!!」 「え?」 もう一方の草履を叩きつけてやろうかと、腕に力を込めて振り上げた。 「きゃぁ!!」 突然冷たい何かに首の後ろを掴まれて、背筋が凍りつく。 「うぬもまた、愉快よな」 無理やり向き合わされて、至近距離で目が合った。 「……だが、少しお仕置きが必要か?」 の顎を掴み、見下す。 「え?」
何が起きたのか分からず、片方の瞼を細く開ければ、異形の男の顔が間近にあった。 「貴様ァ!!」 「…クックックククク…」 その反応を受けて男は笑う。 「…我は風魔…凶つ風……また、何時しか…見えよう…」 立ち消えた異形の男の声は、さして遠くで響いているわけではないのに、どこか遠くで響いているような気がした。 「どこだっ!! 下郎どもーーーっ!!」 「え、あ……様?! 何故ここに?!」
ようやくその場に駆けつけた幸村、兼続、政宗の三人には、どうしても顔を見せる事が出来なかった。 「…さんを…城に…保護して」 「あ、はい!」 「どうした? 何があった?」
疑問符を貼り付けている彼ら三人に、それ以上何も言う事が出来なくて、歯痒い。 「なにも……ないさ」 低い声で慶次が答えて、歩き出す。
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