傍にいるということ - 風魔編 |
「いい? 風魔。相手の意志も確認しないでこういうことしちゃ、だめ。絶対にだめよ。 「混沌か」 「違う、孤独になるの」 強い口調で言えば、風魔は怪訝な顔をした。 「特別が欲しいんでしょう? なら、こんな事はしちゃだめ。 「孤独」 「そう、だからこういう事は一方的にしてはだめ、いい? 分かった??」 風魔が身を引いた。
「いい、風魔。ちょっかい出したいのは分かる、周りに迷惑をかけないのであれば何時絡んできてもいい。 風魔は何も答えずにへと手を伸ばすと抱き上げた。 「風魔…?」 風魔の心の動きが読めぬが不安そうな眼差しで呼べば、彼は顔色一つ変えずに言った。 「…忘れるな、混沌は……何時如何なる時も……お前を覆う……」 「え?」 それだけ告げて、風魔は夜の闇の中へと溶け落ちるように消えた。 「…なんだったの…? 一体……」 がっくりと肩を落としたは、乱れた着衣をどうにかしなくてはならない事に気がついて、深々と溜息を吐いた。
翌日の深夜、風魔は再び現れた。 「あんたさ……昨日の今日で、よくのこのこ現れたわね……」 ひくひくと頬を引き攣らせて問いかければ、風魔は手の中の小さな薬瓶をちらつかせた。 「三度、夜を越える」 「ああ、そう…そうね、そうだったわね……」 「背を見せろ」 部屋の端へ逃げて、が首を横へ大きく振れば、風魔は悟ったように口の端を歪めた。 「特別な事はしない」 「…本当?」 「力ずくでされたいか」 「結構です」 「ならば来い」 「………ったく、分かったわよ…」 肩を落として、部屋の中央まで戻ると、自ら夜着を緩めた。 「あ、あのね…本当ならこうして背を見せる事だって、恥ずかしいことなんだからね? 分かってる?」 「…知らん」 「じゃ、知って。心配してくれるのは有難いんだけどさ、風魔はちょっと突然過ぎるのよ。何もかもが」 言っている間に包帯を解かれて、傷口の上へと薬が塗られた。 「友達が欲しいのは分かるんだけど……方法がね、急過ぎるからね、皆驚いちゃうのよ」 「友などいらん」 「そんなこと言って、素直じゃないんだから」 背に触れた冷たさが消えて、治療が済んだのだと悟ったは夜着を元に戻しつつ言った。 「大体私の事だって、友達だと思ってるから、心配してくれてんでしょ?」 「違う」
いやに強い否定に驚いて振り返れば、淡白、冷淡が常の風魔にしては珍しく険悪な眼差しをしていた。 「友などいらぬ」 「風魔?」 「うぬは我が座興よ」 「はいはい、それはもう聞き飽きたっつーの」 しっしっと身振りで追い払いつつ、は床へと横たわる。
「とにかく、治療有り難うね。で、終わったらとっととお帰り下さいな。私はもう眠いのよ。 「…伊賀の薬など、知らぬ…………昨夜は取り繕うのが大変だったな」 「見てたわけ?」 床の中から怒りと呆れに満ちた眼差しを送れば、風魔は口の端を歪めて笑った。 「うぬは我が座興…明日の夜を楽しみに待つがいい」 夜の闇に溶けた風魔の声に、は深い溜息を吐いた。 「……勘弁してよ……もう…」
翌朝、は風魔の無軌道っぷりに泣かされる事になった。 「おい、!!」 まだ夢うつつ、まどろみの中にいるの元へと突然三成を始めとした面々が乗り込んできた。 「何よー、三成、もっと寝かせてよ〜」
入室の確認もなしに突然私室へと入って来て、朝っぱらから叩き起こされる。 「やれ」 「は、はい」 三成、幸村、左近、慶次、孫市の据わった眼差しに逆らえるはずもなく、が泣きながらへと手を伸ばした。 「な、何? どうしたの? ちゃん??」 「も、申し訳ございません、様……ちょっとあちらに…」 隣室へと促されて従えば、何故かはそこでの身を改めた。 「あ、ありましたわっ!! くっきりと、それも何ヶ所もッ!!」 首を傾げながら、その場でほんの少しずらされた夜着を元に戻した。 「そういや昨日、腰が痛いとか言ってなかったか?」 「こ、腰って、オイ、俺それ初耳だぜ?」 「って事は、一昨日姫相手に夜這いしたってのかっ!!」 「まさか!! そんなはずは…」 「あ」 交わされる憶測の合間にの声が混ざれば、怒り狂っている男達の視線が集中する。 「なんだ、」 「頼みます、殿。知っている事は全てお話下さい!!」 「でも、でも…!!」 「さん、大事なことだ。さんの操に危険が迫ってる」 友の危険だと慶次に強調されれば、にそれ以上の沈黙を持続させられるはずがなかった。 「…一昨日の事なのですけれど…様、夜着が酷く乱れていたんです。こう、背中の部分が真っ二つに裂けてて…」 「「「「「…あの野郎…ブチ殺す…」」」」」 重なった声に凍りついた。 「この際、背に腹は変えられません。兼続殿も巻き込みましょう!! 出た、微妙にえげつない真田幸村の軍略。 「そうだな、捨て駒は少ないより多い方がいい。長政、政宗、家康辺りも巻き込め」 「…捨て駒って殿…」 そしてそれを逡巡すらせずに肯定する三成。 「んーっ!!! ふがーっ!!」 くぐもった声のに気が付いて、一同が隣室との境目まで移動してきた。 「屑が!!」 「気をつけな!!」 「逝きな!!!」 途端、怒声と共に来るわ来るわ、三成、左近のアーツの嵐と孫市の無双奥義。 「んがーっ!?」 当然は顔面蒼白になり曇った悲鳴を上げる。 「…くっくっくっ…」 風魔の指に噛み付いて、辛うじて呼吸を確保したは絶叫した。 「あんた達一体何してんのよー?! 止めてよ、城が壊れるじゃないよっ!!」 焦るの顎を掴み、上を向えせたかと思えば、風魔はそのまま無理やり唇を奪った。 「?!」 息を呑むと一同の前で、慶次が吼えた。 「派手に傾くぜ!!」 無双秘奥義が発動し、重い一撃によって風魔のガードが崩れた。 「これぞ戦の花よ!! ハッハーッ!!」 この時点で階下から、騒ぎを聞きつけた諸将が駆け上がって来る。 「何事ですかっ?!」 「ああ?!」 ギラギラした眼差しで応対する慶次が珍しい。でもそれ以上に怖い。 「殺ったか?!」 「いえ、また分身だったようです」 「チッ…ゴキブリ並みに性質悪ィな…あの野郎…」 「こ…腰が、腰が抜ける…」 慶次の脇に抱えられているが、恐怖に身を竦ませて訴えた。 「さん…ごめんな……護ってやれなかった…」
烈火の如く怒り狂っていたかと思えば、今度はこれ以上はないくらいに優しく、悲しげな眼差しをする。 「あ、あのちょっと待」 「クックックッ……いい座興よ……」 戻ってきた。いや、というよりも本体が現れた。 「いい声で啼いたぞ。具合も良かった」 風魔の発言で、上がってきた諸将をも巻き込んで、場の空気は絶対零度。 「初めてだったのか? 痛がっていたが、力ずくで嬲るうちに溺れた」 「風魔ーーーーーーッ!!」 が叫ぶよりも早く、炸裂した幸村の奥義や他の面々の攻撃。
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