激闘!! 新居獲得大作戦!! |
城からの引越しが確定したある日、は何を思ったのか、同盟国への挨拶回りに三成を送り出した。 「折角だからさ、自分の目でも見ておきたいじゃない?」 軽い調子で出掛けて行ったを止められなかった事を、城の警護に残った面々は、たっぷりと後悔する事になる。 「ねー、そろそろ見えてくる?」 「どうだろうなぁ…」 相変わらずの指定席は松風の上、慶次の腕の中だ。 「道の確認も兼ねて、あのお茶屋さんで一服しようか?」 「市に異論はございません」 「様〜、市様〜、桜餅が美味しそうですわ〜」
妙齢の女が三人も揃えば、自然とピクニック感覚になってしまうのは仕方のない事だと、連れ立っている男集は苦笑した。昼前の出立だった事もあって、時間にも今の所余裕がある。少しくらいの寄り道も悪くはあるまい。 「…なんかもー、悪魔の住処って感じ? 兼続さん連れてきて正解だったよね」
好き勝手に生えている雑草に覆い尽くされた石畳の上を互いに手を貸し合いながら進み、朽ちた正門の前へようやく辿り着く。何故これほど時間をかけたのかといえば、そこかしこに広がった草むらの中から、不意に蝮の類が飛び出してくるとも限らないからだ。 「…思ったより…気味が悪いですわね…」 「…そ、そうですね…」 朽ちた城を前に、と市は完全に気圧されしている。 「うん…なんか……本当に、何か出そうだよね?」 「様!!」 脅えきるに対して「ごめん、ごめん」と謝りつつ、は言う。 「兼続さん、ちゃんと市さんと一緒に行動してあげて? 二人ともそんなに怖がらなくて大丈夫だよ。 先発隊となり城の再建案を纏めに来ていた役人が、の姿を認めて飛び上がる程驚く。 「中を確かめるのか?」 「うん、一応ね。上の階は半蔵さんと政宗さんで見て来てもらえますか? 「お、おう」 半蔵は忍の特性からか姿を隠しているわけで、政宗からしたら一人で行ってこいと言われているようなものだ。 「じゃ、私と慶次さんと、長政さんで蔵の方を。 「分かりました」 「が、頑張りますわ」 何時の間にか両サイドから服の端を捕まれていた兼続は、すっかり幼稚園児の引率のような姿になっていた。 「じゃー、そうですね、半刻ほどしたら、また門の前で集合と言う事で。 松明に火を入れて歩き出したの背を視線で追いながら、別行動を申し渡された面々は思わず溜息を漏らした。 「度胸が据わっていると言うかなんと言うか…本当にさんは傾いてるねぇ」 一方、一緒に進む慶次に言われたは、あっけらかんと笑っていた。
「えー、だってお化け屋敷みたいなもんじゃない。それに資料によると百五十年前だったけ? 根拠のない断言をしたが、己の発言を悔い改めるのは、それから一刻後の事だった。
「なんかさ、視線とか感じない?」 「某は特に…」 「んー、俺もあまり気にはならないが」 「そう? …なんだろ、さっきらずーっと誰かに見られてる気がするんだよね…」 自らの髪の毛を遊ぶように指先で弄りながら、は倒れている調度品や埃を被った桶を踏み越えて進む。 「それにしても……兼続さんも大変だなぁ」 「…はははは…」
乾いた声しか漏らせぬ長政を見て、同時に「すみません」と謝れば、長政は首を横に振った。 「キャーーーーー!!!」 「蜘蛛の巣だ」 「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 長政様ー!!」 「風の音だ」 その度に解説を入れているらしい兼続には頭が下がる。 「さん、俺の後に来な」 「う、うん…そうする」 先頭を歩いていたを慶次が呼び止めて、代わりに長政が松明を取った。 「……え、何?! 今の…」 「踏み外しただけである事を祈った方が良さそうですね」 そう言った長政が槍を改めて握り締めた。 「…か、兼続さん…呼ぼうか?」 素人のにも分かる殺気だ。 「ちょっとこれまずくない?!」 三人は顔を見合わせて、目前の蔵を放り出して駆け出した。 「な、政宗さん?! どうして?!」 「く!! 聞きたいのはこっちじゃ!! 天守閣に昇ったところで突然吸い込まれた!!」 「どこに?」 「朽ちた押入れじゃ!!」 「えええーっ?! うっそ、ここってもしかしてもしなくても、マジで幽霊屋敷?!」 が絶叫して、窓の外を見やる。 「のお姫様がここへ引っ越してきて下さるのは有難いが…止めた方がいい。 「まさか、そのような話、迷信であろう?」 「本当ですじゃ、だから他所の殿様は、皆、ここにこなかった訳で…」 「わしらも年に一度、貢物を持ってくるだ。でないと、祟りで田畑を荒らされるんじゃ」 「祟り…か? 本当の本当に、それは祟りなのか? 何者かが隠れ住んでいるという事は…」 「ないだ!! ほんに祟りだよ!!」 「そ、そうじゃ、そうじゃ」 「お気持ちは嬉しいが、名君と名高いのお姫様に祟りがあってはお可哀相だ、どうか別の土地へ…」 残念そうな口ぶりの彼らの会話が、徐々に遠くなって行く気がした。 「あのさ、今、昼だよね?」 「ああ、昼だな」 「じゃぁ…なんで、外…暗くなってきたの?」 の質問に答えられる者がいるはずもなく、次の瞬間にはもっと面倒な事が起きた。 「あ。壊れてたはずの雨戸が勝手に閉まった」 「淡々と解説してる場合か、馬鹿めッ!!」 叫ぶ政宗の前で、は慶次を呼ぶ。 「どうした? さん」 しゃがんで、しゃがんでと身振り手振りで指示する。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 「落ち着け、馬鹿めーっ!!!」
つまり、抱かかえて逃げろと、そういう事なのかと察した慶次が立ち上がる。 「おいおいおい」 「くっ…これは一体……」 「いやーーーっ!! ポルターガイストー!!!」 本物の幽霊屋敷だったと脅えるが慶次の首に回していた腕に更に力を込めた。 「あーっ!! あれ、ちゃんの!!!」 「何?!」 足を止めた慶次の背へ続いていた長政、政宗がぶつかる。
「っ…ん? 痛った〜」 穴倉の中に落ちたが起き上がれば、下敷きになってくれた慶次と目があった。 「あ、ごめん…慶次さん。痛くない?」 「いや、俺は平気なんだが……さん、ソレ、そろそろどかした方が良くないか?」 珍しく不快を露にする慶次の視線に促されて視線を流せば、の太股の上へ政宗が顔から突っ伏していた。 「ぎゃーーーー!!!!!!」 思わず蹴り飛ばせば、慶次はしてやったり顔になった。 「「様〜」」 「ちゃん、市さん? いるの?!」 持っていた松明を無くしてしまった手前、数メートル先の視界が利かない。 「ちょっと待ってね、カメラ用のライトに切り替えるから」 手早く操作して灯りを手にしてから辺りを見回せば、そこは頭蓋骨が散乱した穴のど真ん中だと知った。 「ひっ!!!! いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」 年頃の女としてあるまじき悲鳴だと思ったが、怖気には勝ち目がなかった。 「聞いて下さい、聞いて下さい、様っ!! ここ、何かいますの!!」 「そうなのです、様!!」 「うん、うん、分かってる。もう充分過ぎるほど分かってるからッ!!」 三人でぎゃあぎゃあ騒いでいると、一人遅れて自力で這い上がって来た慶次が顔を顰めた。 「どうでもいいんだが…兼続はどこだい? お嬢さん達」 「あ、あれ…? そう言えば……」 と市が互いに顔を見合わせた。 「私達と一緒にあの穴に落ちたはずですけれど…」 「と、とにかくさ…兼続さんには悪いけど、一度お城から出ない?? ここ、マジでヤバイよ」 「確かにそれもそうだな。あいつならどうとでもするだろう」 の提案を政宗が後押しすれば、長政、慶次はそれも止むなしと判断した。 「じゃ、一先ず出口を探そうぜ」 慶次の言葉を受けて、達は一もニもなく頷いた。
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