暗闇の中で見つけた恋 - 幸村編 |
『誰でもいい、様の瞳が孤独に曇る事がないように、誰か、誰か、早く様のお傍へ』 の瞳が悲しみで歪むのが怖い。 『死ねない…私は、このような所では……少なくとも…様の御前では、死ぬ事は許されぬ』 外敵から、彼女の心を煩わすもの全てから、護ると誓った。 『嗚呼……天よ。もしこの方が世に必要というのであれば、伏して願い奉る。 暗い眼差しのまま密かに願っていると、が声を発した。 「ねぇ、幸村さん」 「は、はい。なんでしょう?」 「あのさ、もし迷惑じゃなかったら、なんだけど」 視線で先を促せば、は己の腕を擦りながら言った。 「隣に行っていい?」 「え、あ…」 動揺する幸村へ、両手を合わせては願う。 「こういう状況だしさ、まるで誘ってるみたいでよくないって思うには思うんだけど……寒くて…やっぱ、ダメ?」
「幸村さんの事信じてるし、幸村さんなら安心出来るからお願いするんだけど」とは強請る。 「仕方ありませんね、今だけですよ?」 「うん、ありがとう」 「いいえ、どうぞ」 「はい」 上座を立って下座となる幸村の隣へと移る。 「どうしました?」 「うん、ちょっと考えた」 「どのようなことをですか?」 話す度に腹部に痛みが走る。 「私の世界だとさ、こういう遭難してるみたいな状態の劇があるんだけどさ。 そこで言葉を区切り、は苦笑する。 「でも、あれダメだね」 「だめですか?」 「うん。自分で体験して、すっごーーーく、実感した。 力一杯の否定に、少し寂しさを感じて見つめれば、はがっくりと肩を落とした。
「だってさ、怖いもん。すごく。助けは来るのかな? とか、皆は平気かな? とかさ。 独白に思わず苦笑した。 「え、何、なんか変?」 「いいえ、ただ…」 「ただ、何?」 「余裕がないと仰っている割に、たまに様は大胆ですよね」 「え?」
「余裕がない、怖い。その通りなのでしょう。けれども、同時にそのようなことを考えてもいらっしゃる。 幸村の言葉に、思わず押し黙ったは、次の瞬間には「違いない」と笑った。 『ああ、この笑みを見続けられることができなら、どんなにかいいだろう。 自身の体に掛る負担、限界の訪れを感じながら、幸村もまた微笑んだ。
「……ん、あ、やば…寝てた?」 どれくらいたったのだろうか。肌寒さを覚えては目を開けた。 「あ…火、消えちゃってる…」 生暖かい感触に心地よさを覚えながら、視覚から得た情報を整理した。 「そうだ、幸村さん?」 顔を上げれば、幸村は座したままだった。 「あ、ごめっ!! 足、痺れちゃうよねっ」 慌てて起き上がろうとして、座したままの幸村に意識がないことに気がついた。 「…幸村…さん?」
自分と同じように寝ているのならばいい。いや、寝ているだけであってほしいと願いながら掌を伸ばした。 「幸村…さ…」 身を起すと同時に、幸村の体が傾いた。
「えっ、何? どうしたの? どこが痛いの?! 怪我?! それとも肌寒いの?! ね、幸村さん、ねぇ!! 外傷がない分どうしていいのかが分からずに焦りが募った。 「ごめんなさい、私のせいで…何時も何時も、迷惑ばかりかけて!!
声をかけても幸村の意識は戻らず、治療しようにもどこが悪いのかも分らない。 『ううん、だめだ。こうしてたって、何も始まらない!!』 どうしたらいいのか、どうする事が最善かと考えて、はその場から立ち上がった。 「誰か…!! 誰か、お願い、気づいて!! お願い!!」 狭い三畳四方の壁をくまなく触れて歩いた。 「お願い、誰でもいい!! 気づいて!! 助けて!! 幸村さんが大変なの!! お願い、助けてッ!!」 一人になってしまう事への恐怖。
「気づいて、お願い!! 私、ここにいる!! 幸村さんと、ここにいるの!! 無意識のうちに泣きながら岩壁を両手で叩いていた。 「お願い、お願い!! 怖い…怖いよ…誰か…幸村さんを助けて……!! こんなの、やだぁ…」 岩肌に爪を立てて、喉が枯れるほどの声を張り上げた。 「お願い、誰か、助けて!!」 痛切な叫び声を上げて叫ぶと同時に、の背へと両手が伸びた。 「様…どう…されました…か…」 擦れた声は幸村のもの。 「ゆ、幸村さん…だめ、隣でて寝てて、無理しないで、私なんかのために」 嗚咽で上手く言葉を紡げずにもどかしさを噛み締めていると、幸村は悲しそうに眉を寄せた。 「…幸村さん?」 「…ああ…やはり………私は、未熟だ…」 「え?」 ずるずるとその場に崩れ落ちる幸村を支え切れず、もまた、その場へと膝をつく。 「貴方を…守りたいと……泣かせまいと……願うのに……何時も、何時でも…泣かせてばかりで…」 「違う、違う!! 幸村さんはすごいよ、ちゃんとしてる人だよ!! 「…本望です、貴方の為ならば……私は、死など……怖れません…」 ほんの少し嬉しそうに柔らかく微笑んで、幸村はの頬を撫でる。
「だめ、死んじゃだめ……私を一人にしちゃ、だめ…絶対に、絶対に許さない……
なんだかとんでもないことを言っている気がしたが、それどころではなかった。 「必ず、外に出れるから。出る方法はあるはずだから、だからもう少しだけ頑張って、お願い!!」 「…様……約束を…して下さ…い……」 「え?」 「もし…道が開けたら……一人で先に…」 「いやぁ!! そんな事言わないで…!!」 ぼろぼろ溢れてくる指先で涙を拭い、幸村は言い聞かせるように言う。 「私は、ここを動きません……だから、助けを呼んで下さい……二人より、一人の方が早い…」 「だめ、絶対にだめ、一緒に行くんだよ。一緒に、出るの!!」 力なく幸村は首を横へと振った。 「貴方は…人々の希望………私などに構ってはなりませぬ……様、どうか…どうか…」 「やだ……幸村さんをおいて行ったら、私は後悔する。先に進めなくなる!! 懸命に訴えれば、幸村は薄く微笑む。 「ええ、言いました……だからこそ、願うのです……」 「え? 何言って…」 「何かを犠牲にする時……それが今です。貴方を救うために、私の命が必要なのであれば…」 「そんなのいらない!! 諦めないで、そんなの…勝手に決めないで!! 叫んだところで、幸村の目が一瞬大きく見開かれた。
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