誓約書 |
「武田信玄」 面をつけ直した信玄が、顔を上げた。呼ばれるまま進み出てくる。 「何かね?」 「主の前であるぞ」 の言葉に、皆が目を丸くした。信玄自身も大層驚いていた。 「これより、そなたには武田騎馬隊改め、騎馬隊の頭領としての任を言い渡す。 「はは、承った」 深く礼をしてから顔を上げた信玄と視線を合わせたは、それからすぐに表情を崩した。 「あー、なんかこういうの、慣れないね」 照れくさそうに笑うへと、確認の意を含んだ視線を左近が送れば、は己の胸元へと視線を移した。 「あの時、信玄公…本当に心配してくれてた。 「左様ですか」 「うん、だからこれでいいんだ。きっと」 晴れやかな笑みを浮かべたは、信玄へと視線を移してぺこりと頭を下げた。 「改めて、これから宜しくお願いしますね。信玄公」 「ワッハッハッハッ!! それじゃー、頑張っちゃおうかね」 「はい、期待してます。でもまず今は、復興作業からね?」 和やかな空気が二人の間に流れる。 「時に、先程のアレは一体なんだったのですかな??」
「あー、あれね。ええと、こっちで起きていた事がどんな事なのかは良く分からないんですけど……。 周囲を見回してが問えば、信玄以外の面々が相槌を打った。
「待って、動かないで!!」 逆巻く暴風の中で、燃え上がる炎。 「兼続さん、お願い!!!!!」 天を這う黄金の龍が、今まさに牙を剥かんと大きく蠢いた。 「大丈夫、大丈夫よ、お姉ちゃんが絶対に絶対に護るからね!!」 胸元に入れていたツールを取りしだして、現代へと繋ぐべくパネルを操作した。 「誰か縄を持ってくるんじゃ!!」 「様、どうか動かないで下さい!! 崩れますっ!!」 秀吉、幸村が悲壮感を貼り付けた顔で叫ぶ。 「様?!」 「慶次さん、これ、力一杯外へ投げてっ!! 今すぐっ!!」
炎と瓦礫の向こうに立つ慶次へと向い投げれば、慶次がそれを片手で受け止めた。 「兼続さん、結界、もういっちょ!!」 「任せよ!!」 二重三重に展開された結界。
あの極限状態の前触れを予知し、それをに伝えるべくの手元に届けられたのであろう不可思議なからくり。 「忘れろと言われたって忘れられるもんじゃないぜ、あれは」
その後に起きた出来事全てを思い出していたのか、自然と室には沈痛な沈黙が広がった。 「全くじゃ」 相槌を打った秀吉も渋い顔をしていた。
「一言で言っちゃうと、今回のはあのツールを送ってくれた人とはまた別の………… 「いや、それはよう分かっとるが…」
もっと具体的に聞きたいと、壁際まで吹っ飛んでいた秀吉が、その場から駆け戻りながら強請る。
「ごめん、実は私も詳しくは話せないの。っていうのも、説明を聞こうにも、時間も短かったし。 「そんなに酷い影響が出てたのですかっ?!」 心配そうに身を乗り出した幸村を、は慌てて諌めた。 「あ、ううん、そうじゃなくて。多分あれは慣れの問題。痛みとかそういうのじゃないから、大丈夫」 「左様ですか、ようございました」 安堵したのか、幸村が腰を落ちつける。 「それよりね、次にしなきゃならない事が分かったよ」 「して、それは??」 「ある人を探さなきゃならない、それも早急に」 家康と秀吉が何かを予感したように互いに目くばせする。 「探さなきゃならない人の名前は、春日源助」
「「「春日源助?!」」」 幸村、信玄、左近が同時に反応を示した。 「うん、誰か心当たりある??」 「心当たりも何も…」 左近が呟いて信玄を見やれば、信玄も不思議そうに首を傾げた後、言った。 「わしの秘蔵っ子じゃよ。春日源助っちゅーのは昔の名でのー。今は高坂昌信という」 「え。そうなの? なんかよく分かんないけど、すっごい偶然」 「で、その者に何させるつもりですか。姫」 別け隔てが出来ないにあれやこれやと言っても仕方がない。 「えーと……一言で言うと…書記…かな? 多分、うん。きっと、そう」 「はぁ…?!」 全員が目を丸くした。当然だった。 「書記…ですか? よりによって…」 「何も今更…」 「うーん、でもね。私が今回救われたのって、彼が色々書いて残してるからなんだよね」 「え?」 「あー、ええと、細かい事はともかくとして。 しどろもどろと説明をするを見て、秀吉と家康が同時に頭を振った。 「そう食いつくな、左近。別にいいじゃろ、書記くらい」
「そうですなぁ。新たに加わった信玄殿の元から勅命を受ける者が出るとなれば、それは誉れですぞ。 「そう、そうだよね? ね? 別にいいよね?」 二人の助け船を受けてが言い、肝心の確認を忘れていたとばかりに信玄へと視線を移す。 「良かった。じゃ、早速…そういう事で話を進めましょう」 そこで一区切りして、は家康と秀吉を見た。 「ところで、お二人とも何か言いたい事、あったんじゃないですか?」 「あ、いや、いいんじゃ。のぅ? 家康殿」 「え、ええ。お気遣いなさいますな」 「そう?」 二人は無理やり話を切り上げたのには理由があった。 「さ、新たに心強い仲間も出来たことじゃ、これから益々忙しくなるで〜」 秀吉が陽気に声を上げ、家康が穏やかに微笑む。
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今回登場したオリキャラさんx2はこれから来る最大の危機を乗りきる為の彼女の武器です。 彼女が非戦ヒロインであるが故の配慮って事で、納得して頂けると有り難く…。(09.11.14.) |