帰るべき場所 |
色情狂の姑息な罠に嵌ってが城を追われてから二週間が過ぎた。 「それは誠ですか、様!!」 「ええ、そうなのです。様は人を疑う事が苦手な方ですから、復興の為の資金援助という言葉にすっかり 「まぁ!! なんてことっ!!」 「腰入れを条件にしている事を伏せていたなんて!! 酷過ぎますわ!!」 城の奥向きを預かる服部半蔵の愛妻・服部は、の親友である。 「嗚呼…様……私に出来る事は何かないでしょうか……私、私、こんな事辛くて…」 天然を絵に描いたようなは、の境遇を憂い、心配だと事あるごとに涙ぐんでいた。 「なんでこんな事になってるんだ?! 情報の広がりが早過ぎないか?! おい、左近!!」 「知りませんよ、左近に当たらないで下さいよ!!」
こんな事が続けば、おひれはひれがついた噂が公式発表よりも早く蔓延するのは当然だった。
一方で、城を追われたはどうしているのかというと…。 「姫さんよ〜、木材が余ったんでな。板垣、直してやるぜ〜」
「あ、棟梁さん! どうもありがとう、色々してくれて…でももう私は姫でも何でもないからね。 「何言ってんだよ、俺らの姫はやっぱりアンタだよ」 日頃の行いがいいからだろうか。には想像以上に求心力があるようだ。 「戻ったぜ、さん」
「あ、お帰りなさい。慶次さん。今日ね、隣のおばちゃんに教えてもらって、煮込み作ってみたの。 「いいや、俺はさんの手料理食えるってだけで、幸せだぜ?」 「本当? そう言ってくれると、すごく嬉しいな」
やる事もないからと大工仕事で日銭を稼ぎ帰宅する慶次に教えられながら竈と格闘するの姿は、傍から見れば新婚夫婦のようで微笑ましいと、すぐさま第二の噂になった。 「、暇だろう? 暇だな、暇な筈だ。 痺れを切らした三成に詰め寄られて、は有無を言わさず城外へと放り出された。 「どうでしたか、さん」 結局日帰りしたを、茶の時間に取り巻く三成、左近、幸村の形相は必至だ。 「そうですねぇ、とても楽しそうでしたわ。最近では、行水する慶次様の裸も見慣れた…なんておっしゃってました」 「行水?!」 「はい。お風呂がまだ直っておりませんの。ですから、庭先で…こう上半身を脱いで…」 「まさか姫まで行水してないだろうな!!」 「その心配はありませんわ。ご近所の方がお湯を貸して下さいますもの」 「そ、そうか…良かった」 「全然良くはないだろう。まぁ、ボロ屋だからな…なんとかして早く直させんと……」 「気に揉む事はないかもしれませんわ。
『さん…寒いのかい? 』 『うん…凍えそう…』
小さな行燈の灯りで辛うじて視界が利くこ汚い室の中で、二人は向かい合う。 『じゃ、俺が温めてやるよ』 『慶次さん…だめだよ、こんなの…!』 『そうかい? だが俺もあんたも、もう主従じゃない…誰に遠慮しなきゃならない? 』 『で、でも…こ、こういう事は…』 慶次の腕から逃れようとするを慶次は巧みに捕まえて、床の上へと押し倒す。 『…観念しなよ……あんたの細腕で、この乱世を生き抜けるはずないだろう? 』 言われて硬直したの頭を慶次が撫でれば、の頬を涙が一粒伝い落ちた。 『慶次さん…最初から、これが目的だったの…?』 『ああ、そうさ。そうやって従順になってなよ。そうすりゃ、ずっとずっと、俺が護ってやる 』 悲しげな眼差しで問うに、慶次は薄く笑いながら頷く。 『俺の手に抱かれた瞬間から、あんたはこの前田慶次の"女"だ、さん』 『あ…だめ…あ、あ…』 そのまま重なる二人の男女の姿。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 「姫、だめだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 「様っ!! 流されてはなりませぬーーーっ!!!」 「おみゃーさんら、頭は大丈夫か?」 突然黙ったかと思えば、今度は発狂する。 「…す、すいません、大殿。左近、腹痛なんで午後は休みます」 「右に同じです。真田幸村、頭痛になりました」 「秀吉様、私もです。寒気と眩暈がします」 口々に飛び出す仮病報告に、秀吉は呆れて言う。 「おみゃぁさんら……仮病報告はとりあえず武器を置いてからにするんさ。普通にバレバレじゃよ?」 「あ、あの…」 「まだ何かあったのか?」 不機嫌塗れの三成に詰問されたは、脅え縮こまりながら言った。 「皆様が心配されているような事にはなっていないと思います」 「それはまたどうしてですか??」 「昨日、帰る時の事なのですけれど……政宗様のところから孫市様が飛び出して来て…そのまま居候に…」
『待たせたな、俺の女神』 囲炉裏の傍で慣れぬ繕いものに取り組むの元へと、孫市が進み出た。 『孫市さん? あれ? 慶次さんは??』 『あ、慶次? さぁな、さっきそこで寝入ってたぜ?? 飲み過ぎなんじゃないか』 彼の言葉通り、縁側には一服盛られてくたばる慶次の姿がある。 『そうな……きゃ、ま、孫市さん?! 何するのっ?!』 慶次の姿を確認しようとしたを、孫市が背後から両手で抱き、捕まえた。 『怖がらなくていいさ、俺はただ貴方を身も心も溶けさせてやりたいだけだ』 『え?』 揉み合う二人の姿は、すぐに布団の中で崩れて、重なってゆく。 『や、だめ…こんなの…いけないよ!』 涙ぐむの腕を片手で軽々と抑え込んで、孫市はの着物の帯を解いて行く。 『だ、だめ……だめぇ…』 『ほら、素直になりなよ……俺だけの女神……桃源郷、見せてやるぜ』 羞恥で耐えられなくなったが両の瞼を閉じて顔を背けた。
「姫ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」 「離れろ、色情狂ォォォォォォォ!!!!!!」 「様っ!! 諦めてはなりませぬーーーっ!!!」 「ちょ、ええ加減にせんかいっ!! 回想を止めんか、回想をっ!!! 秀吉が叫んで三人を正気に戻せば、三人は切羽詰った様子で叫んだ。
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