帰るべき場所 |
が龍興の肩に手を置いて問うものの、 「そのような提案は認めぬ!!」 城内から鶴の一声が上がった。 「斎藤龍興殿、貴公の行い、手腕は我が目でよくよく見せて頂いた。 「誰? あのオッサン」 「…これ、姫。朝廷からのお使者の方ですよ。 「ええっ、そうなの?! ご、ごめんなさい」 の失言を慌てて左近が窘めた。 「斎藤龍興殿、この騒ぎは全て貴公の落ち度であるそうだな。 「え、えええ?!」 真っ青な顔で恫喝した使者は、すぐに表情を改めた。 「、これよりそなたには旧領・ともに斎藤家が要する領・石高、全てを与える。 が出向いてくるまで余程肝を冷やしていたのだろう。 「………」 たった一枚の紙切れが、全てを無に帰す。 「姫」 左近に呼ばれて、瞬きをする。 「あ。だめだ」 受け取るのかと思いきや、寸前で止まった掌。 「あの、私…今、余所で働いてて……そっちまだ辞職してないから…」 また頓珍漢な事を言い出したと、三成が目頭を押さえる。 「何言ってんだ! わしらの姫様はやっぱりあんたただ一人だよ!! 早く返り咲いてくれ!!」 声の主はが務めていた飯屋の店主のものだった。 「そうだ、そうだ!」
「姫様を除いて誰がこのごたごた収められるってんだ! 俺ら、あんただからついてくんだぜ!! 「おうよ!!」 「あたしら達の為にも、戻っておくれよ」 彼の声を呼び水に、方々から嘆願の声が湧きあがる。 「、謹んでお受け致します」 落ち着いた口調で述べた後、膝を折って、両手を差し出した。 「御前にて無礼仕ります」 一度拝礼したが身を翻し、後方に控える家臣らを見た。 「前田慶次」 「おう!!」 「本日この時より、護衛役への復帰を言い渡す。 「任せな」 慶次が捕まえていた龍興を一揆衆の中へと放り出して身を翻した。 「島左近、石田三成」 「ハッ」 「はい」 「両名、休暇返上!! 本日この時を持って、元の職に戻す。 「いいでしょう」 「左近の手腕、御覧に入れましょう?」 「で、このオッサンはどうする? 殺っとくか?」 二人が城の中へと入って行くのを見送ってからの視線が孫市へと移った。 「いいえ、そんな必要ないわ。でも、この人には自分が使った国費は、実費で返してもらう」 目を丸くし、首を横に振りながら「出来ない、無理だ」と、龍興は訴える。 「出来ないじゃない!! 自分で使ったのよ、ちゃんと働いて返しなさい!! 「俺らの所で雇ってやるぜ? おっさん」 絶句する龍興を大工衆ががっちりと捕まえた。 「こらーーーーっ!!! 「は、ははー!! ただいまーっ!!」 半兵衛が気がついて、天守閣の中に引っ込む。 「はぁ…こんなに賛同してるの? 全く、いい大人が揃いも揃って何してるんですか…」 溜息をついたは全員に向い言った。 「とりあえず、正座」 言われるまま、皆が腰を下す。 「姫様、今度の騒ぎはこの竹中半兵衛が起こしたもの、何卒、私の首だけでご容赦を…」 帯刀していた刀を差し出して許しを乞う半兵衛に向い、は着物の袖をまくり上げて腕を掲げた。 「オイ、あれってもしかして…もしかするのか?」 「だよな…きっとそうだよ…」 「…出るぞ、出るぞ…」 民の間でひそひそと囁きが起きる。 「半兵衛さんも皆も、上向いて、上」 「えっ…」 「何、文句あるの?」 「い、いえ…」 まさか自分達がやられる日が来るとは思ってもみなかったのだろう。 ゴッ!! ガスッ!! ドスッ!! ボスッ!! ガンッ!! メキョッ!!
鈍い音が天へと轟いて、食らった全員が大地へとダウンし、のたうち回った。
「皆、本当に運がいいわ。幸村さんにやられたら、間違いなく首の骨折れてたわよ? 整理運動を終えたは、警吏を数名呼びつけると今回の騒動に加担した一般兵にも同じ刑罰を一回だけ課すように言い渡した。兵達はする方もされる方も、端から覚悟の上なのか、苦笑いだった。 「それと皆は監督責任もあるって事で、全領の復旧が済むまでお給料は三割カットだからね。以上、おしまい」 「姫様…!!」 謀叛と言われても不思議はない行動にも分け隔てることなく、公正な罰と慈悲を与えるの姿に、ラリアートの餌食になった家臣達は感動を噛み締める。
「ほら、皆、何を何時までもぼさっとしてるの。さっさと立って、立って。それで左近さんや三成の事、手伝って。 言葉を失う諸将に随時命令を飛ばしながら、は歩き出す。
「はーい、一揆衆の皆さんも、生活に戻った戻った〜!! 当面の文句は、投書箱によろしくねー!! 民衆に声を掛け、民衆が賛同の歓声を上げれば、は応えるように手を振った。 「さてっと、仕事、仕事!!」 モーゼのように民衆で出来た波の間を縫って城の前へと戻って来たは、未だその場に残って呻いていた竹中半兵衛の肩へと手を掛けると、立ち上がるのを手伝いながら言った。
「半兵衛さん、"花子"のことは残念だったけど…"花子"の二代目を造ろうね。 の言葉を聞いた半兵衛は、一度だけ目を丸くして、それからすぐに爽やかに微笑んだ。
"遠い未来との約束---第五部" 了
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半兵衛さんを出すなら絶対に一度はやりたいと思っていたのさ。(10.04.11) |