瀬戸際の逃亡 |
「もっと分かり易く話せないのか」
「では簡潔に。現在私の周囲には防御壁を展開、これにより敵の砲撃、銃撃を防いでいます。 「つまり、見つかり易くもなるし、撃たれやすくもなるという事か」 「肯定します。尚…」 「まだあるのか」 「はい、これが一番重要です。私が治療に専念した場合、自動操縦機能が失われ、補助機能しか作動しなくなります」 「と言う事は、止まるのか?! 敵地のど真ん中だぞ!!」 「いえ、運転は…」 「私! 安全運転出来ますわ!! ここに来るまでにうさぎさんとカメさんが教えてくれましたもの!!」 の発言を受けて、三成が半信半疑を絵に描いたような顔をすれば、音声が淡々と現実を紡ぐ。 「肯定します。この地より領、最寄りの城までの距離を演算。 「私、運転します!! 大丈夫です、擬似練習でゆっくり走りましたもの!!」 「このままでは一網打尽じゃ。やるしかなかろうな」 家康の言葉を受けて、三成は小さく溜息を吐いた。 「俺に出来る事はあるか?!」 「最寄りの旧城への支援要請を願います。筆記具です。 が戻した筆記具が飛び出して来て、使い方を説明する映像が、三成の目の前のガラスに映し出される。 「出来たぞ、どうすればいい?」 筆記具が自動的に片付いて、今度は竹筒と同じくらいの太さの銀色の筒が飛び出してきた。 「ここに入れればいいのだな?」 「はい」 三成がその中へと文を入れて手を上げれば、筒には自動的に蓋が嵌まった。 「角度、速度演算終了。旧城へ向かい射出します。着弾予測4時間後。 淡々と告げられる最中、三成の文が入った銀の筒が夜空へ向かい飛んだ。 「進路検索終了。助手席前に進路図を展示します。補助をお願いします」 「よかろう。この青線に合わせて進めばいいのだな?!」 「その通りです。五秒後に運転を切り替えます。宜しいですか?」 「はい。何時でもどうぞ」 「5…4…3…2…1…切り替わります」 車内に一瞬鈍い音が響いた。 「おい、?!」 「くっ!!」
舗装もされていない悪路を難なく進めたのは、この塊自体の働きによるものだと容易に分かった。 「あ、有り難うございます」 は言い、正面を見据える。 「気にするな、前を見ろ。おい、塊。地図に出るこの赤い点は何だ?!」 「はい」 「敵の位置です」 「…続々と集まってくるな…」 三成が舌を打つ。 「不埒な真似は儂がさせぬゆえ、安心なされよ」 「…あ、ああ…」 擦れた声で答えたァ千代の着物が解かれる。
事態が慌ただしく動き続ける中、件の城下には松永久秀の姿があった。 「…汝に聞きたいことがある…」 出血が多く、焦点すらままなっていないらしい男を凍てついた眼差しで見下し、問うた。 「能書きは結構。是か否で答えよ」 眩暈でも起こしているのか、男の体が傾く。 「ぐあっ!! あっ…ぐ…うあぁぁぁ…」 見目とは程遠い硬さなのだろう。 「うう!! あっ…ぐあ…!!」 柄を掴む手に力を籠めれば、微かに剣先が振動した。 「この暗殺は、誰の企みで、誰を狙ったものかが聞きたい。 剣から伝う憎悪に慄き、男は首を大きく横に振った。 「否か。では私が狙いか?」 それは違うと、唇が動く。 「ふむ、それも否か」 男が何度となく頭を縦に振った。 「まだ話は済んでいない」 長剣に圧がかかり、傷が深くなる。 「ヒッ!! ぐ…っ!」 痛みに呻き、悶えた男の掌が長剣を掴んだ。 「元気そうだ、安心したよ。さ、続きを聞かせてくれないか」 靄がかる視野の中にいる久秀の性質を知り、恐れをなしたのか男が渾身の力を込めて言の葉を発した。 「あ………け……ち……だ…と…………う」 「ほう。汝らは明智家に滅ぼされた者か」 優雅な所作で、突き立てていた長剣を引き抜き、利き手を束帯の中に隠す。 「保護してやりなさい」 「よろしいのですか」 「使い道がありそうだ」 剣先に伝う血を懐から取り出した懐紙で拭いながら、久秀は歩き出す。 「それに、の姫自らの手で救った者だ。無惨な死を遂げたと知れば悲しまれよう」 言葉とは裏腹に、彼の視線には憎悪とも嫌悪ともとれる歪んだ色がありありと浮かびあがる。 「早急に手当てをし、首謀者を特定せよ。明智を討ちたいと願うのであれば、捨て石には丁度良い」 「畏まりました、そのように」 白い頭巾と装束に身を包む麗人が緩やかな所作で礼をした。 「そうだ、大谷」 「はい」 「今日の姫君の供は、君の親友だったようだ」 呼ばれた麗人の瞳が僅かに揺れた。 「死なぬとよいな」 忠誠を試すかのような物言いと視線に、麗人は臆することなく答えた。 「案ずるには及びませんでしょう。彼は引き際も、攻め時も弁えておりますから」 「ほう。かような者が、姫の供か」 己の顎に掌を添えてから、久秀がゆっくりと頷いた。 「礼を言うよ、大谷。それを聞き多少は安堵した」 「恐れ入ります」 「だが、私は口伝はあまり好みではなくてね。この目で見ないと落ち着かない」 「…ならば、ここは私が預かりましょう」 「頼むよ」 ゆらりゆらりと歩き出した久秀の背に向かい、麗人は再び浅い礼をした。
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