瀬戸際の逃亡 |
支えがある内に現状を回復させねばならぬと、気を取り直してがアクセルを踏んだ。 「! 三成、そなたまさかあの時に…」 「言うな」 三成と家康の視線が宙で絡んだ。 「お前が死ねば、は闇から戻らぬ。俺はそれが嫌だっただけだ」 三成はそういい、家康の二の腕に己の腕を絡めた。 「俺が支える、お前は何があっても、を離すな!!」 「元よりそのつもりじゃ」
男二人が妙な連帯感に包まれている頃、絶壁の上では、辿りついてた新手の追撃隊が色めき立っていた。 「早く断ち切れ!!」
手に手に刀を取り出してワイヤーに向けて振り下ろすものの、刃毀れするばかりでワイヤーは断ちきれない。 「三成様!!」 「なんだっ?」 に呼ばれて顔を上げた三成が、眉を顰めた。 「、灯りを消し闇に紛れよ。充分に引きつけた後、灯りで敵の目を眩ませるのだ」 「分かりましたわ!!」 がすぐさまヘッドライトを消灯した。 「…どうしましょう…」
ゆるりゆるりと登り続ける車体の中に吊るされる家康の体力もそろそろ限界だ。 「さん、早く治って下さいまし!!」 嘆くの声にが答えて、フロントガラスに翡翠の文字を浮かび上がらせる。 「家康様、もう少し、もう少し耐えて下さいませ!! きっと、きっとさんが助けて下さいますわ」 「…うぅ…ぅぅ…ぐっ…ぐぁっ…!!」 鈍い音が上がり、三成の肩に一気に負担がかかる。 「うっ!!」 怪力と言われるだけあってこれくらいの加重であれば、物の数ではない。 「おい、誰か油を持ってこい!!」
対岸からの火矢を見て思いついたのか、機転を利かせた兵が絶壁へと油を流す。 「、灯りをつけろ!! 隠す必要はない!!」 「はい!!」
フロントガラスに刻まれたカウントダウンが進み、"零"の文字を刻むと同時に、最後部の羽根が自動的に閉まった。 「お待たせしました、マスター。無事ですか、東照大権現」 意識のないと手負いのァ千代を庇って一番下に落ちた家康が、外れていない方の腕を振って答えれば、それと時を同じくして車体の横を絶壁の上にいた兵士の屍が落ちて行った。 「風魔だと?!」 「助けて下さるのでしょうか?!」 車体を見下ろした風魔が踵を返して印を結んだ。 「な、何者だ!!」 手に槍を、刀を構えて風魔を取り囲む兵に向かい、彼は至極不機嫌そうな眼差しを向けて答えた。 「我は風魔……混沌を呼ぶ凶つ風…」 彼が絶壁の上で兵と切り結び始める頃、車体は安定したスピードを持って絶壁を登り始めた。 「あれは我が座興……うぬらには…過ぎたる者よ…」 一人、また一人と屠り、 「壊しつくしてやろう」 最後の一人を無双秘奥義で滅した刹那、ワイヤーを巻き切ったが絶壁の上へと躍り出た。 「行きます!!」 がギアを入れ替えて、強くアクセルを踏み込んだ。 「逃すな!! 跳ね橋砦に兵力を集結させろ!!!」 出遅れた追撃兵の一部が飛ばす指令が絶壁に反響する。
一方、同時刻、領。 「はぁ?! からくりが勝手に動いた?! しかもさんを喰って?!」 意味不明な報告を受けた左近は、評議場で目を瞬かせていた。
『市、星が美しいな』 『はい、長政様』 『某は、我が君に降れたことを嬉しく思う』 『長政様?』 に身を寄せる多くの将兵のように、長政にも同じ変化が現れたのだろうかと、ほんの少し不安そうにする市に、長政は藤の花を手渡しながら言った。
『我が君に降って、困難は多々あれど、某はこうして市と共に信義に反さず穏やかな時を生きている。 『ああ、そういう意味ですか』 『他にどんな意味があるんだい??』 不思議そうに問いかける長政の前で市は穏やかに微笑み、首を左右に振った。 『なんでもありません』 『そうか?』 『はい、市もまた嬉しく思います。長政様と共にいられる事、こうしてに身を寄せられた事を…』 そう言って市は再び夜空を見上げた。 『………あの、長政様?』 『なんだい? 市』 『…流れ星が…』 『流れ星??』
再建し終わった天守閣の屋根に二人で登り身を寄せ合って見上げ続けた空に異変が起きた。 『長政様、これを!!』 『…? な、これはっ!!!』
市が筒から取り出した書状を受け取った長政は、瞬時に反応を示し、二階へと降りた。 『秀吉殿、待たれよ!!』 『ん? どうしたんじゃ、長政殿』 多くを語らず険しい表情を見せた長政の様子から危機を悟った慶次と幸村が、厩に入れたばかりの愛馬を再び連れ出す。その間に長政は銀色の筒に書を納めると、階下の秀吉へと向かい投げ上げた。 『今すぐ発たれよ!! 北の街道を開放致す!! 某は本国へ急使を立て、兵馬を整えて後詰となります!!』 受け取った秀吉が中を改めれば、愛弟子三成からの救援を求める文が収められていた。 『なんちゅうこっちゃ!! こうしゃおれん!! いくで、三人とも!!』 『何があったのだ?』 慶次が松風と共に連れて来た愛馬に騎乗しながら発した兼続の問いに、秀吉は長政へと向けて筒を放って帰しつつ簡潔に答えた。 『暗殺さ』 『何!?』 『落ち着くんさ、様は巻き込まれただけじゃ。じゃがどうにもまずい事になっとる。 『出るぜ』 『北西の関所ですね? 先に行きます!!』 慶次、幸村が相次いで城を後にし、準備を整えた騎馬を統制して秀吉、兼続が後に続く。 『待ってて下され、様!! 秀吉が今、行くでよ!!』
知らせを聞き、同封されていた文を改めて三成の文字に相違ないと判じた左近はすぐさま意識を切り替えた。 「領各所に緊急令!! 見慣れぬからくりが現れたら迎撃せずに保護せよ!!」 風雲急を告げる事態を知った城は、ようやく慌ただしく動き出した。
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正念場はここから!!(12.10.03.up) |