立花が作る道 |
したいと思い、出来ぬと思い知らされた事を男は臆面もなく言った。 「救いたいと思ったことなんか、一度もない!!!!!! 閉じた男の瞼が開く。
「契約内容の重みなんか、知らなかったのよ!!! 知ってたら、引き受けたりしなかった!!! 男の腕に力がこもった。 「貴方は神様なのに…人が足掻くの見て楽しんでるだけじゃない!!! 分かったような事言わないで!!」 振り払うように突き飛ばされて、がよろめき後方へと転がった。 「きゃぁ!!」 じろりと見降ろしてきた男の顔を、目に焼き付けるかのようにまっすぐと見上げて、は唸った。
「…神様なら神様らしく…沢山の人に崇められるようないい事しなさいよ!!!! 「クックックックックッ」 男は肩を揺らして笑い、ゆるりとした動きで立ち上がった。 「ハーッハッハッハッハッハ!!!!」 小さな笑いはやがて大きくなり、彼はさも愉快というように笑い続ける。 「何がおかしいのよ!!!」 が叫べば、彼は笑う事を止めた。 「…欲深い話よな?」 「何ですって?」 「何故、神が人を救わねばならぬ? が怪訝な眼差しを向けた。
「落ちた世で"神託の巫女"と呼ばれ、人に在らざる力を操り、才知長ける者を尽く傅かせたうぬは、 「わ、私は…神じゃない」 「神とて同じよ。人を救わねばならぬ道理はない。 反論の余地のない言葉には息を呑んだ。 「辛いと、重いと、うぬは嘆き救いを求め訴える。 「………それは……」 「人の定めを変えるは、神に在らず。人自身よ」
「でも!!! それじゃ、足りないことだってあるの!!! 足掻いても、足掻いても、届かない!! 男の手が伸びての目元を覆う。 「うぁ…」 彼の体から漆黒のオーラが迸る。 「あ……っ…あああ…あぁ…」 体が痺れた。 「ならば、抗うのを止めよ」 「で…も……、それじゃ………」 意識が朦朧とする。 「受け入れた時、開かれる道もあると知れ」 潰えた意識の奥底で聞いた声は、最後にこういった。 「我は神に在らず、天魔、統べる者なり」
跳ね橋砦を経て逃走を続けるの前方に広がる闇が徐々に晴れて行く。 「朝が近いか」 束の間であっても休むように促されたが、家康も、三成も、も眠ろうとはしなかった。 「へは後どれくらいなのでしょう」 の問いにが答える。 「八里弱です」 「そうですか、このまま無事に帰れるかしら…」 の言葉に、三成と家康は安易に答えたりはしなかった。 「様、もうすぐですわ…もうすぐ、に…皆様の元に…帰れますわ」 意識のないの身を案じ、がのことをぎゅっと抱きしめた。 「」 「は、はい」 三成がを呼び、空いたままの運転席を示した。 「貴様はここへ戻れ。が制御を再び失ったら、誰が舵を切る?」 三成の指摘を受けたがはっとして、の体を寝かしつけた。 「、気を揉むことはない。三成殿は、もしもに備えようとしただけじゃ」 「は、はい。そうですわね」 運転席に再びが腰を下ろし、シートベルトを締めてハンドルを握った。 「み、三成様。あ、あの…」 せめて家康の負担を減らそうとが三成の声をかけるが、彼からの返事はない。 「まぁ! ど、どうしましょう!?」 慌てだしたをが諌めた。 「マスター、心配には及びません。治部少輔殿の出血は既に止まっています」 「でも、でも…」 「、もしもの時の為にも寝かせたままにしておくのじゃ。が大丈夫というのなら、そうなのだろう」 家康の言葉に、ァ千代が乗る。 「ほうっておけ。危機が来れば自ずと目覚める、武士とはそういうものだ」 「は、はい」
を包む宵闇が消えて行く。 「来たか」 「はい」 第五の関に続く坂道の天辺で、状況を伺うように一度停止した。 「突破にするにあたり、最善の策は誰かあるか?」 嵐の前の静けさ漂う関を睨み、三成が問う。 「……飛べないのか? このからくり」 雷切に額を預けていたァ千代が言う。 「ふむ、助走をつけて砦を越える…か」 「直線だぞ、罠がそこかしこにあるとみて間違いはないだろう」 「だが道幅を考えれば正面突破はアホのすることだ」 家康、三成、ァ千代の会話に入れぬが、仲間入りしたそうにゆっくりと挙手した。 「なんだ?」 三成の問いかけを受けたが嬉しそうに口を開いた。 「飛べますわ」 「どうやって?」 夢物語じゃないんだぞ、と冷たい視線の三成の問いかけにが砦へと続く道ではなく、壁を示した。 「あそこを走りますわ」 「壁だと!?」 目を向いた三人の前で、が気持ち胸を張った。 「私達、様をお迎えに上がる際、の関を破るわけには参りませんから何度か壁伝いに走って 尤もだ。だが果たしてそれは叶うものなのか? 「、壁を伝い、跳躍して関を越えることは可能か?」 悩む三成を余所に家康がの案に乗った。 「可能です」 問われたが簡潔に答えた。 「方針がまとまったと判断してよろしいですか?」 最後の確認とばかりに問えば、三成が頷き、ァ千代も不敵に笑った。 「では、出発します。念の為シートベルトで各自体の固定をしてください」 がベルトをぎゅっと掴んだ。 「予想以上の歓迎ぶりだな」 三成の独白に、が言う。 「馬止め、先のように突破できないかしら?」 「その案には賛同できません。瑞玉霊神の雷撃では、この地の壁の方が持ちません」 「なるほど、走れなくなるか」 「肯定します」 「馬止めを避けて走るとなると…」 が道筋を視線で追っていると、不意に手裏剣が道筋に突き刺さった。 「地雷原か、つくづく面倒な関だな」 手裏剣が飛んできた軌道を視線で辿れば、先に風魔の姿がある。 「撃て!!!」 と、同時に関から雨のような発砲が始まった。 「おのれ、小癪な!!! 撃って撃って撃ちまくって、撃ち落とせ!!!!」 色めき立つ関へ向けては走り、ここぞというところで勢いを使い関の上を飛び越えた。 「半蔵様、助けて!!!!」 次の瞬間、が泣き叫んだ。堪えていたものが一気に溢れ出したのだろう。 「真田幸村、いざ参る!!!」 聞きなれた声が耳を過った。 「皆、進路を開けるんじゃ!! 様を迎え入れるで!!!」 くねる道筋の向こう、領預かりの関所が問答無用で開門される中、は関の中へと滑り込んだ。 「閉門!!!」
歯軋りする追随の兵の視線を交わしながら山道を爆走するからくりは、あっという間に領の関を越え、最寄りの小城の中に逃げ込むと、盛大にスピンし、白壁の一部に激突。壁に大きな亀裂を入れて停止した。
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到着!(13.01.09.up) |