松永久秀の暴走 |
「世迷い言よ!!」 久秀が抜刀し、箱の一角に細剣を突き立てた。 「貴様の甘言につき合い、ここまでしたのは何の為だと思う? 「久秀」 浮遊していたCube-Aが動き、壊れた個所を修復しようとする刹那、 「喝!!」 久秀が突き刺した細剣を強く刺し込んだ。 「ひぃっ!」 家臣達が動揺し、からくりが落ちた池からは水が溢れ出て久秀の足を濡らした。 「私を舐めるな、からくり」 一度、二度と、雷撃が真紅のからくりを打つ。 「…私は、お前の傀儡ではない。私は、あのお方の臣! 貴様の思い通りになどなりはしない!!」 バチバチと音を立てて、真紅のからくりが沈黙する。 「ERROR. ERROR. 認識コードを入力して下さい」 久秀が刀を振り上げ、鞘へと戻す。 「ERROR. ERROR. 認識コードを入力して下さい」 「貴様の助言など、もういらぬ。これからは私のやり方でやる」 「ERROR. ERROR. 認識コードを入力して下さい」 真紅のからくりに背を向けた久秀の目には狂気が強く貼りついている。 「ERROR. ERROR. ………修復可能と判断。再起動します……3…2…1…」 真紅のからくりが言う。 「時空の認識が出来ません……座標の確認を試みます」 何かを思いついたのか、久秀が歩みを止めて、振り返った。 「Atomic Industry omega.」 声に反応してCube-Aが向きを変える。 「……貴方は、どなたですか?」 真紅のからくりは問う。 「私の名は、松永久秀。を守護する者」 久秀が淡々と答える。 「………マスターのことですね?」 「その通りだ。我が君の為、働いてもらうぞ、からくり」 「yes.sir. 私は何をすればよいのですか?」 「追々話そう、まずはの家臣を名乗る不忠者どもを根絶やしにする」 「…家臣を、名乗る…?」 「我が君を捕らえ、いいように貪るつもりだ。だがそうはさせぬ。尽く滅ぼし、我が君を奪還する」 「マスターは囚われているのですか?」 「ああ…かの国で、我が君は多くの苦難に見舞われた……もう看過は出来ぬ…」 久秀の声に沸々とした怒りが満ちている。 「了承しました」
返答を受けた久秀は真紅のからくりを見下ろし、満足気に小さく口の端を吊り上げた。 「だが我が君には地獄はいらぬ」 「久秀? 何を考えているのです?」 「からくり、本願寺へ飛べ。我が君には、しばし眠って頂く。 真紅のからくりが沈黙する。 「迷っている時間はないぞ、明智の魔手が我が君へと迫っている」 「了承しました、任務を遂行します」
夢を見ていた。 『……これは……一体?』 困惑するの前に男が立つ。 「さて…諸将の扱いだが……」 男は落ち着いた口調で言葉を紡いだ。
"玉の緒よ たえなばたえね ながらへば 忍ぶることの弱りもぞする"
そうだ、この声があの恋歌を紡いだのだ。 『一体、何が起きてるの?』
打開策を求めるように、男の顔を見ようと動こうとするが、手足が思うように動かない。 「あっ…!」 思わず恐怖で声を上げた。 「貴公らの働きには敬意を表する」 男が言う。 「そんな! 皆!」 段々と、状況がのみ込めてきた。 「お願い、皆を殺さないで!!」 助命を願い、声を張り上げるが、眼前の男は微動だにしない。 「貴公ら全ての命と引き換えに、君主を救おう」 縛されていた者達が伏せていた顔を上げた。 「俺達が死ねば、本当に…首は取らないのか?」 三成が問う。 「止めて、三成!! 私、そんな事望んでない!!」 張り上げる声は、まるで見えない防音ガラスに遮断されているかのようだ。 「誰が貴様を信じる? 貴様は主家に弓引き、将軍家をも脅かす不忠者。 「何とでも言われるがよい。だが貴様は、そんな私に頭を下げねばなるまいな?」 男が軽く手を動かせば、三成の背に立っていた兵が彼の背を強く踏みつけた。 「うぐっ!」 怪我でもしているのか、無理やり折り曲げられた三成の口の奥から苦悶の息が落ちた。 「分を弁えろ? 不忠と私を貴様は詰るが、貴様はどうなのだ?」 「何を…」 三成の声は呻き声に近い。
「本来ならば敬意を表さねばならない主君に懸想し、その想いを隠そうともしない。 息を詰める三成の横で幸村が吼えた。 「人が人を思うは、自然な事! 咎められるべきことでは…」 「黙れ!!!」 「…よいのだ、幸村…さして苦でもない」 苦悶の眼差しが、男を越えての目を捕らえる。 「止めて、お願い!! 皆に酷い事しないで!! 止めてよ、ねぇ!!」 叫んでも、声は届かない。 「…俺らが死ねば、さんには手は出さないんだね?」 胡坐をかいていた慶次が問う。 「ああ。誓約しよう」 「そうかい、分かった! なら、遠慮はいらねぇ!! ずばっとやりな!!!」 「慶次さん!!!!」 「慶次殿!?」 幸村が顔色を変える中、彼の横に座していた孫市が慶次のように身を正した。 「孫市殿?」 「幸村…これが最後の奉公ってことさ。彼女を救えるなら、安いもんだろ?」 「何を…」 信じられぬとばかりに混乱する幸村の視野の中に、朱が散った。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」 が絶叫し、頬に一滴の涙が伝った。 「止めて…お願い、止めてぇ!!!! 殺さないでぇ!!!!」 声は届かず、救いの手はない。
"玉の緒よ たえなばたえね ながらへば 忍ぶることの弱りもぞする"
あの恋歌だけが残った。
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久秀、覚醒。乱世の梟雄と呼ばれた男がついに動き出す。(20.01.03.) |