光と影 |
信玄が唸ると同時に、武田本陣から火の手が上がった。 「何?!」
何事かと信玄、忠勝が顔色を変える中、武田本陣の門が次々に閉じ、内側から硬く施錠された。 「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前」 戦地に早九字が響く。 「むうっ!?」 「我は風魔…禍つ風……混沌をうぬらに与えよう…」 突如として現れた風魔忍軍は武田方に加勢し、戦況不利を覆した。 「臆すな、兵よ!! 我らには様のご加護があるぞ!!! 底力を見せつけるのじゃ!!!」 「ムゥゥゥゥゥゥ……殿…!!」
三国黒に騎乗していた忠勝が由々しき事態だと苦悶を顔に貼り付けて唸った。 「……ふっ、貴様の相手は、我がしよう…」 そんな忠勝の前に、風魔が現れる。
一方、妻女山では、風魔忍軍の援護を受けた別動隊が包囲網に風穴を開けて八幡原を目指して進軍していた。 「お命、頂戴だよ!」 「シャァ!!! ここから先は一歩も通さねェェェェェェェ!!」 「黙れ、馬鹿。集中しろ」 伏兵を形成するのは、ねね率いる忍者軍団と、秀吉の子飼いで形成された一群だった。 「なっ!? ね、ねね殿?!」 秀吉の奥方であればと期待したのは束の間だった。 「くっ! 下がれ、長政!! 話して分かる相手じゃねぇ!!!」 「コラ! 小六!! 失礼な事、言わないの! 「な、何の話だよ?」 「どうせうちの人、綺麗なお姫様に熱上げていいように振り回されているんでしょう?!」 そういう理由ではないのだが、常日頃から女人については全く信用のない秀吉との関係を、どうここで弁明したらいいのか言葉に詰まる。 「うちの人も!! うちの人を誑かした子も、悪いことする子は、皆まとめてお仕置きだよ!!!」
【Side : 城下町】 川中島の戦の火蓋が切って落とされて三日後、領ではついに兼続が動いた。 「すまぬ、幸村…伝令を頼まれてくれ…」 祭壇の前で印を結び、法力を揮う兼続が苦しげに呻く。 「どうされたのですか、兼続殿?」 「何者かが本願寺の力を増幅させている…これ程の陰陽師が揃っていながらにして押し負けるはずがない」
本願寺の発する法力もさることながら、何者かの介在で、尋常ならざる力の差を見せる戦い。 「そ、そんな…一体何者が…!?」 死地に入ることで初めて見えて来たこともあると、兼続の視線は語った。
「本願寺だ、本願寺の敷地に…何者かがいる……彼らの法力を底上げしている…!! 強い念が…我が君を…!! 兼続の意識が研ぎ澄まされてゆく。 「これは…? 様のからくり? いや、あのからくりは地下にあるはず…」 幸村の視線が揺らめく炎に注視する。 「…本願寺、顕如?」 幸村が困惑も露に瞬きするが、無理もない。 「何故? まさか、あの男の弁こそが謀だとでも言うのか…?!」 幸村の問いかけに答えるように、炎の中の映像が変わった。 「………まさか……そんな……そんな、馬鹿な!!!」 やがて、顕如を脅かす何かの正体が鮮明になる。
程無く城内の評議場で報告を受けた秀吉は、経緯を聞くと我が耳を疑うとばかりに目を丸くした。 「な、なんじゃと?! じゃあ本願寺は松永に従っとるわけじゃないんか?!」 「はい。恐らく、顕如を人質に取られているが故に、言いなりになっているだけなのではないかと…」 邸からとって返した幸村の弁を聞いた秀吉は、驚きのあまり、座っていた椅子から転げ落ちた。 「…なんちゅうこっちゃ…」 「おい、ちょっと待てよ!」 孫市が二人の話に割って入る。 「顕如はともかく、なんで女神を護るはずのからくりがそっちについてる?!」 「分かりません。ですが間違いありません、顕如を脅しているのは、あのからくり以外にありません」 「あんなもんがもう一つ、この世に存在しているというのか?!」 「そう…なります…」 皆が思案し、言葉を呑む。 「に真意を確かめねばなるまいな」 三成が独白するように言い、左近が呼びに行こうと立ち上がる。 「申し上げます!! お梶様が様を伴い、と共に関を越えたとの事!!」 「何ィ!? 何が、どうなっとるんじゃッ?!」 秀吉の目が白黒と忙しなく変わる。 「どこだ! どこ、目指してた?!」 「はっ、一路…本願寺を……」 全員が再び息呑んだ。 「………もう……他に…術はないんさ…」 秀吉が肩を揺らして大きく息を吐いた。 「秀吉様?」 三成、半兵衛が小さく丸まった秀吉の背を見る。 「…足利の旗を掲げるで」 「し、しかしそれは最終手段で…」 「分かっとる、じゃがもう後がない。が敵の手に落ちたら…事じゃ。 彼は評議場の隅に詰めているあの公家を見た。 「おみゃーさんの力を借りてもいいか?」 「無論じゃ! 麿が仲立ちしようぞ」 それから数日と経たずに、ついに家は将軍家足利義輝の旗を天高く掲げて、松永家への宣戦布告を発令した。 「幸村、半蔵。二人で本願寺に当たってくれ。 戦支度を終えて評議場に皆が集う。 「三成」 「はっ」 控えた三成に対し、秀吉は言った。 「おみゃあさんと、左近、半兵衛はここに残るんじゃ」 「なっ!」 二人が驚いたように顔を上げれば、秀吉は言った。 「兼続の結界を護る者も必要じゃ。これには左近が当たればええ。 「御意」 三成が礼をし、秀吉へと指揮丈を捧げた。 「じゃぁ、そろそろ行こうか」 慶次の声を受けて、幸村、孫市、半蔵が立った。
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三方向、同時戦闘、始まるよ!(20.02.24.) |