烙印の代償 |
「お願い!! もう止めてっ!! が欲しいなら、全部全部あげる!! 金切り声をあげて、眼前に立つ純白の束帯を纏う影に縋りついた。 「だから……だから、こんな酷い事、しないで…!!」 影はの哀願を受けても、何一つ動じることはなかった。 『泣かないで……どうか…悲しまないで…』 「勘違いされては困る、私は…貴方の国など欲してはいない」 「う、くっ…ううっ…」 の足下を汚すのは、生々しい鮮血の海。 「…お願い…皆を…ころさないで…!!」 「国など、いらぬのだ。私が欲しいのは…」 頬を伝う涙を拭った指先が、の唇に触れてそれから顎をとる。 「っ!」 脅えて距離を取ろうとするものの、がっちりと腰を抱え込まれて動くことが出来ない。 「……やめろ……に……触れるな…」 吐血しながら三成が手を伸ばした。 「いやぁ!! 三成、動かないで!! 動いちゃ駄目っ!!」 が暴れて三成に向かい手を伸ばせば、影を取り巻く靄のどす黒さが深みを増した。 「がはぁ!」 三成が呻いて、一層大きく吐血する。 「いや、止めて!! 止めて!! お願い、お願い!!! もう許して!! こんなのは嫌ぁ!!」 「貴方は、騙されているに過ぎない」 「騙される? 何言って…」 「彼らは、貴方を篭絡しようとした……家臣でありながら……貴方を……」 『泣かないで……悲しまないで……』 「違う!! 今まで皆が私を護ってくれたのよ!!!」 が影の胸板を両手で何度も叩いて、訴えた。 「騙されてなんかない!! 私は傀儡じゃない!!」 「う…ぁ…ああ…っ…は…」 「我が君…もう嘆くのはお止め下さい。時期に、そのまやかしは解けます」 影の掌が再びの顎をとる。 「止めてっ! いやっ……触らないで…っ!」 懸命に抗うものの、影の力に敵うはずもない。 「………に…触る…」 三成が事切れると同時に、二人の唇が無理やり重なった。 「んっ!!!!!」 嫌だと心で泣き喚くものの、唇は一方的に強引に貪れる。 「下郎が!! 様への狼藉は許さん!」 幸村が吼えて、身を起こす。 『止めて、立たないで……幸村さんまで…酷い目にあう……』 己を包み込む束帯を握り締めて、懸命に堪えようとするの体を一層強く、影は抱きしめた。 「悲しまれますな、我が君…悪夢は…続かない」 離れた唇が耳元で睦言を紡ぐ。 「…怖れることは、何もない…貴方は全て私に任せて、微笑んでいて下さればそれでいい…」 影が後ろ手に障子を閉める。ゆるりゆるりと迫ってくる。 「今は、ただ…眠って下さい…」 「いやだ……止めて……こんなのいやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
圧し掛かられ、首筋に降って来た影の息遣いと唇の感触に、嫌悪して悶えた。 「!!」 耳に届いた断末魔は、間違いなく戦地に残した家臣達のもの。
【Side : 松永城】 「………っ…!」 「久秀…? どうしました? 酷い顔です」 床の上に起き上がった久秀の背後に、Cube-Aが寄り添う。 「何でもない…瑣末な事だ」 「しかし…酷い汗です。心拍数も上がっています」 「気にするな、大事は及んでいない」 「久秀、忘れてはいませんか」 肩を落とし苦しげに息を吐く久秀の前へとCube-Aが回り込んだ。 「あの世界は夢であり、同時に夢ではありません。 「忘れてなどいない」 「久秀、そうではありません。 「何が、言いたい」 久秀が眉を寄せて、銀の球を睨む。 「マスターの夢に貴方が現れることで、彼女の見る夢が悪夢になる可能性があるという事です」 「……心に留めておこう」 久秀は視線を伏せて、これ以上の追及を拒んだ。 「夢幻迷宮でのマスターの様子は如何でしたか?」 「…ご健勝だ。案ずるには及ばぬ…」 「そうですか、僥倖です」 『私がお傍にいるだけで……悪夢を見ていると…そういうのか? 「……本願寺め…」 久秀が低い声で独白する。 「仕事の話です。御覧下さい、戦地の状況です」 「ああ、聞こう」
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