三方位防衛戦 |
「?!」 二人が固唾を呑む中で、Cubeの融解と結合が終わる。 「なっ! 慶次殿!?」 「落ち着け、真田」 動揺する幸村を半蔵が諌める。 「し、しかし…」 機械的な声を上げて吼えた慶次のコピーが鉾を揮い、二人に襲いかかった。 「くっ!」 後退しながら豪快な一撃を躱し続ける。 「…どうすれば…」 困惑し、顔を歪める幸村とは相反して、半蔵は冷静であった。 『……完全な……移し身……完全…か……ならば…』 「くっ!!」 打ち込まれた一撃を炎槍素戔鳴を盾にして幸村が受ける。 「ぐうううっ!!」 受け止める柄の部分でけたたましい音が鳴り、火花が散った。 「は、半蔵殿…このままでは…」 「臆すな、紛いものは、紛いもの……本体には遠く及ばぬ」 どういう事かと視線で問いかければ、半蔵は敵が動くより早く、艶やかな声で述べた。 「主が三成に襲われている、いいのか」 瞬間、人工知能を越えてモデリングしている者の本能が反応を示した。 「こういうことだ」 「え…?!」 仰天する幸村の言葉など意に介していないのか、半蔵は更に追撃をかけた。 「左近が迫っているぞ」 今度は真逆を示す。 『……慶次殿と同じ姿なのに……馬鹿だ………この移し身……慶次殿と違って、ものすごく馬鹿なんだ…』 「……あの…こ、これでいいのでしょうか?」 思い悩む幸村に、半蔵は淡々と答えた。 「勝てば、官軍」 「それはそうなのですが…」 迷う幸村に対し、半蔵は言った。 「あの程度では沈黙はすまい。真田の、大掛かりな術をしかける故、しばし時間を稼げ」 「え…ど、どうやって?」 「今の要領だ」 どうしたものかと、思い悩む幸村を余所に、半蔵は姿を消す。 「ああ! あのような場所で様が孫市殿に!!」
【Side : 城下町】
左近と半兵衛は突如として現れたCubeから繰り出される射撃に手を焼いていた。 「ねぇ、左近殿」 「なんです?」 半兵衛が往来の反対側の物陰に隠れながら手で合図する。 「残念だよねぇ、生け捕り出来そうにないもの」 半兵衛が愚痴る。 「全くだ、ちょこまかして面倒ったらないぜ」 左近が同調して舌を打った。 「半兵衛さん!」 左近がアーツを駆使して救援する。 「っと、ありがと!」 結局二人とも往来に引きずり出され、互いに背を護るように布陣するしかなかった。 「こりゃ、分が悪い…」 旗色の悪い戦いを屋内から見ていた飯屋の店主が、裏口に回った。 「なぁ、どうするべさ?」 「俺達が出てっても邪魔なだけだ…」 「そういや……さっき邸にァ千代様が入ってくの見ったけな」 「それだ! 俺、ひとっ走りいってくら!」 「なら俺は城に行く。石田様を呼んだ方が早そうだ」 「ああ」 裏口で顔を合わせた飲食店の店主と、お客が示しを合わせて、異なる方向へと駆け出した。
【Side : 川中島】 ねね撃破が清正の意識を変えた。 「い…今は退く…守るべきものの為に…」 「鬼柴田が助太刀に参った!!!」 肩を押さえて長政が戦線を離脱した。 「お、お市様…」 勝家が動揺し、手が止まる。 「勝家…退いては…貰えぬのですか?」 対峙する二人の横を利家と清正が駆ける。
武田本陣に着陣した伊達政宗は、引き連れて来た鉄砲隊を配備した。 『おのれ〜!! なんたる事か!! 徳川の守護神が聞いて呆れるわ!! とんだ脳筋ではないか!!!』 川中島に布陣しているのが家康ではなく、秀吉だったら、どんなにか良かっただろう。 「殿ォ!! 我が武によって目を覚まされよォ!!」
闘尖荒覇吐(とうせんあらはばき)で斬りかかっていないから、まだ、忠誠心は残っているのだろう。 「おぐふぉ!!」 しかも昏倒した家康をふん縛って、そのまま連れて帰ろうとしたから侮れない。 「壊してやろう」 すかさず風魔が無双奥義を駆使して忠勝を牽制。 「あああああ!!! 面倒じゃ!!! わしが出る!!! 伊達鉄砲隊、援護射撃じゃ!!!」 何が悲しくてわざわざ封じた本陣の門を、こんな理由で自ら開けなくてはならないのか。 「えええい!! この狸が!! 少しは痩せぬか!!! 天ぷらばかり食うでないわ!!!」
家康と彼が着込む甲冑と筒槍の重量に翻弄されながら撤退しなくてはならない政宗の膝がガクガクと震える。 「こらーーー!! 待ちなさーーーい!!!」 攻め上がってきたねねの放つくないが政宗へと迫る。 「てめぇ!! 何しやがる!! あっぶねぇだろうがぁ!!」
ねねへの攻撃を福島正則が壁になってしのぎ、そんな正則の背を飛び越えてねねが軽快に攻め上がってくる。 「交代じゃ!! この戦の総大将は、これよりは武田信玄に非ず!! 徳川家康とする!!!」 政宗が身勝手に発令した総大将交代の命令は、当然ながら武田の御旗を掲げる兵を動揺させた。 「有難うね、政宗! これでオジさん、謙信と心行くまで戦で語り合えるよ!!」 流石、武田信玄。 「さぁ、謙信! いっちょやろうかね!!」 まるで竹馬の友が相撲でも取り合うかのように、二人は互いに打ち合い始めた。
【Side : 本願寺】 ずずずず…っと大きな音を伴って、大地が揺れた。 『ついにこの日が来たか…』 このお堂で虜囚となってから二十年以上の時が過ぎた。 『なんと…恐ろしい……』 外の喧騒は、恐らく慈愛の姫の軍が、姫の安寧を求めて起こしているに違いない。 『悪事には必ず相応の報いが下るもの…その時は…今かもしれぬ…』 顕如は数珠を握り、掌を合わせて祈る。 「報いは我が身に…赦しを皆に…」 ここに囚われてからずっとずっと同じことばかりを祈った。 「なぁに、そう悲嘆にくれるばかりが人生ではないんさ!」 顕如が聞きなれぬ声に顔を上げれば、顔に炭を塗った小男が屋根裏から顔を出していた。 「いよっと!! ちょいとお邪魔するんさ〜!」
身軽に飛び降りて来た小男は、懐から三貴宇津皇子(みはしらのうつみこ)を取り出した。 「侵入者を発見! 侵入者を発見!! 排除します」
問答無用なのか、顕如を脅していたCubeがけたたましく警報を鳴らして小男を標的と定める。
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