三方位防衛戦 |
「ほっ、ほいっ、ほいさっ、ほぅら! はっ、どうした、どうした! こっちじゃぞ〜!!」 彼らはそこで自分の目では理解できない現実を目にすることになった。 「ほれ、ほれ、ほれ、どうした! 下手な鉄砲はどんだけ撃っても鳩にも当たらんぞ〜!」 障害物もないのに、軽快に飛び跳ねて逃げ回る。 「や、止めるのだ! 命を無駄にしてはならぬ」 顕如が声をかけるが、逃げ回る小男はおどけた表情を見せて答えた。 「そう心配せんと、わしにお任せあれ!」 「よっ!」と掛け声を上げて再び天井裏へと小男は逃げた。 「いや〜。おみゃーさんの射撃は見事じゃのう、一切、ブレがない!」 からくりまで褒める小男に銃弾の雨が降る。 「じゃが、まだまだ甘いのう」 天井裏に消えたと思ったのに、今度は小男は床板を突き破って姿を現した。 「そんなに撃って、おみゃーさん大丈夫なんか?? 残弾数、きちんと把握はしとるんか??」 逃げ回る小男の言葉に僧兵達が息を呑んだ。
「いっくら、おみゃーさんが正確で? 休まんでいいとしても、脅す武器をなくしたとしたら、どうする?? 秀吉の煽りに乗らず、Cubeは狙撃を続ける。当たらぬ狙撃を、だ。 「ほいさ!」 ズドン! と大きな音を立てて小男が天井から顕如の背後へと舞い降りた。 「おみゃーさんはわしを排除せにゃならんが、この部屋において、 次なる武器を模索していたCubeが動きを止めた。 「そうじゃ、正解じゃ。おみゃーさんはこのお人を人質に取っておる。 小男は顕如の背に掌を重ねてゆっくりと顕如を押した。 「顕如殿、信じて下され。わしは豊臣秀吉、おみゃーさんらが脅かしとる慈愛の姫の懐刀なんさ」 「なんと…」 「わしはあんたを救う、じゃからあんたにはわしの姫を救ってもらいたいんじゃよ。普通にありじゃろ??」 秀吉に押されるままゆっくりと歩を進め始めた顕如の動きに合わせてCubeが動いた。
「おーっと、妙な動きはせん方がいいぞ〜? わしを狙うには、顕如殿は大柄すぎる。 不敵に笑いながら秀吉は歩を進め、ついに顕如はお堂に囚われてから二十数年ぶりに自らの足で大地を踏みしめた。 「…おお…」 「…なんと…」 「…顕如様…」 感嘆の声が僧兵から漏れた。 「さて、そろそろ仕上げじゃな」 秀吉が低い声で独り愚痴た。 「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」 ズゴゴゴゴゴ…と濁音を伴って、本願寺の本堂に何か大きな影が重なった。 「っか〜、派手じゃのう!」
顕如を蹴り上げて、岩と泥流で象られた熊の攻撃の軌道から逃した秀吉は、大きく手を打って半蔵を褒め称えた。
「顕如殿。私は真田幸村、国・国主、の名代です。救援に参りました。 「いや…なんと感謝したらよいのか…」
幸村の手をとって立ち上がった顕如の姿に、警戒していた僧兵の間で大きな歓声が上がった。 「わしの奥さん、忍びなんじゃよ」 そこで一呼吸置いた秀吉の声が抑揚を失う。 「ねねにそんな伝手はない、じゃ、誰が忍びの術を、ねねに、教えたと思う??」 言葉は軽く、視線は冷たく、口元は朗らかに。 「わしがかつて信長様に見いだされたんは、調子がいいからってだけじゃーなんじゃな〜、これが〜〜」
常に明るく前向きな豊臣秀吉の中に潜む、意外な一面を見た本願寺の僧兵は息を呑んだ。
「顕如殿。に力を貸してくれんか? 潰した本堂は、後に倍返しで建て直しちゃる。
外交用の表情、声色で秀吉は願った。
――――― 本願寺、解放 ―――――
誰もが成し得なかった、成し得ると思っていなかった偉業の一つが達成された。
【Side : 城下町】
左近と半兵衛を脅かすCubeの話を聞いたァ千代は、迷うことなく祭壇に捧げた雷切を手に取った。 「二人とも邪魔だ!! 動くな!!!」 狙撃の的になっているのに動くなとは正気の沙汰じゃない。 「雷切よ、我が意に応えよ」 二人がァ千代に撤収を指示するより早く、ァ千代は雷切を構えて、天高く掲げた。 「え…ちょっと…これってまさか…?」 半兵衛が息を呑んだ。 「もしかします…かね?」 左近がごくりと唾を飲み込んだ。 「雷切、招雷ーーー!!!」 ァ千代の髪がふわりと跳ね上がる。 「いった!!」 「痛っ!」 思わず二人が自分の武器を手放すと、時を同じくして。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 ァ千代の全身が神々しく光る。 「わわわわわ!!!」 「ちょ!! 待って! 待って!! 俺達がせめて逃げてからで!!!」 「動くなと言っている!!! 下手に動くと当たってしまうだろうが!」 身の危険を感じて叫ぶ左近、半兵衛に対してァ千代の答えは容赦がなかった。 「ちょ、ァ千代さん!?」 「え、まさか完全に制御できてないの!?」 「こんなものは、気合いだ!! 立花であれば気合でどうとでもして見せる!!!」 あまりにも恐ろしいことを言い出したァ千代に、左近と半兵衛は息を呑んだ。 「例えちょこまか動こうとも、我が雷光からは逃れられぬ!!!!」 「確かにそうかもだけど!!!!」 「ちったぁ加減してくれませんかね!!」 左近、半兵衛が嘆くのも無理はない。 「そんなものが出来たら端からやっている!」
敵の撃破だけであれば、気合だけでどうにか出来ると断言するァ千代に二人は恐れをなした。 「緊急警報、緊急警報! 本願寺に障害発生!! 本願寺に障害発生!!」 雷の雨から瞬間移動で逃れていたCubeの動きが突如として鈍くなる。 「やった! さっすが、秀吉様!!」 「勝機!!」 半兵衛が破顔し、ァ千代が不敵に笑う。 「この地より、去れ!!」 ァ千代は掲げた雷切を力の限り振り下ろした。 「高圧電流を確認、危険と判断。防御します」 雷に穿たれるよりも一瞬早く、Cubeが天空に向けて透明の幕を貼り巡らした。 「くぅっ!!!」 雷では幕を貫けぬと判じたCubeが銃口の標準をァ千代に定めた。 「負けぬ!!! 決して、立花は折れぬ!!!」 雷切を握るァ千代の手に汗が伝う。
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