使命完遂 |
【Side : 防衛線戦】
総大将として防衛線戦に参戦した三成は、松永家軍師・大谷吉継の読み通り、蒲生氏郷を誘引して雑賀孫市に暗殺させようとした。 「か〜、面倒くせぇな〜。あっちにも頭が切れる奴がいるのかよ!」
ぼやく孫市を包囲するのは吉継の連れている手勢だった。 「こりゃ、下手打ったかねぇ…?」
吉継が動かす松永軍は、戦力の九割を盆地に布陣する義勇軍大隊へと集中させていた。 『…それまでの辛抱ってとこだな…』
慶次・孫市ら勢にとって、たった一つ、僥倖があるとすれば、それは先陣を預かる宇喜多秀家率いる寄せ集めの軍の士気の高さだった。
「いいか、秀家。金で集められた軍の意識統一なんぞしようとするな。
「いいんだよ、これで。どの道こんな戦場で"給金だけの働きしかしない"なんて意識の奴は宛にならない。
仕事人・雑賀孫市の言葉は正しかった。 「…吉継…」 先に口を開いたの三成だった。 「三成、変わりないようだな」 「ああ。快適だ」 「そうなのか」 「ああ」 「秀吉様はご健勝か?」 間合いを計り、久久能智神采(くくのちしんさい)と志那都神扇(しなつのしんせん)で幾度となく打ち合う。 「問題ない、そう遠からずここへ来るぞ」 「そうか」 「どの面下げて秀吉様の前に出るつもりだ? 今からでも遅くない、下れ」
三成の言葉に、吉継の顔が僅かに陰る。
「あの日…もしお前が俺の代わりに秀吉様の供となっていたら……こうして方に立っていたのは、 三成の言葉に、吉継の眉が強く寄った。 「何を言うんだ、今更…」 「吉継、には言葉に尽くせぬ価値がある」 「お前が命をかけるほどなのか?」 「俺だけではない、秀吉様も…命を懸けている」
二人は互いの立ち位置を入れ替え、激しく打ち合っては離れ。 「らしくない」 「何が」 「らしくないんだ、お前は本当に俺の知る石田三成か?」 真意を読ませぬ吉継の言葉に、三成の眉が僅かに寄った。 「俺の知っている石田三成は美人計になどかからぬ」 への真心を気の迷いか、計略に浮かされただけだと謗られて、三成の顔色が険しくなった。 「お前が一体あいつの…の何を知っているというんだ!!! あいつは…は…!!」 荒々しい言葉遣いで力強く打ち込んでくる三成の一撃一撃を受け、時に横へ流しながら吉継は目を見張る。 「世にどんな噂が流れているかなど知らぬ! だが俺が知るは、命を懸ける価値がある!! それだけだ!」 「…三成、お前…秀吉様の為ではないのか?」
吉継が久久能智神采を巧みに操れば、そこかしこに雷が落ちた。 「三成、お前、一体誰の為に戦っている? 秀吉様の為ではないのか?」 暗に忠義を問われた三成が激高する。 「違う、違う、違う、違う!! 俺は!! 俺は秀吉様への忠を捨てたわけではない!」 「では何故、そんな顔をする?」 強く眉を寄せ、三成は己の首を左右に強く振った。 「秀吉様のご恩には報いる。だが、俺は…」
一度強く瞼を閉じて、瞼を開いた。 「三成、お前は、一体、誰の為に命を張っているんだ」 「」 揺るぎない回答を述べた後で、一瞬微笑んだ三成は、吉継との距離を詰めた。 『速い!』
足捌きは軽やかに、振り込まれる志那都神扇の一撃は強い。 「はぁ!!」
三成はすかさず爆薬を使った。 「三成、お前、俺を殺すのか」
「そうだ。このまま松永久秀を放置すれば、が死ぬ。それだけはさせない。 「…そうか…」 吉継が立ち上がり、何とも言えぬ眼差しを三成へと向けた。 「俺の知る…友は…もうここにはいないのだな…」 情を捨てきれず、苦悶に満ちた顔で吉継が久久能智神采を構え直した。
「三成…俺も一軍を任された立場にある。俺には秀吉様の天下を諦められない。
改めて二人は対峙した。今度は互いに殺意を目に宿している。 「!?」 「おぐっ!!」 謀らずも弾き飛ばしたそれが、吉継に直撃した。 「よ、吉継!!!」 頼みの軍師が大地に沈んだことに、側で奮戦していた氏郷が動揺した。 「石田ァ!!!!」 「?!」
叫び声に反射的に振り返れば、天御柱神咆哮(あまのみはしらのかみ)が脳天目掛けて振り落とされる寸前だった。 「くそ! 死ね!! この!! この!!!! この野郎!!!!」 「………?!」
相殺に終わった鍔迫り合いの間を殺さぬように、天御柱神咆哮を振り上げた男は、執拗に三成のことだけを追い回した。渾身の力を込めているのか、天御柱神咆哮を両手で握りしめて、力任せに何度となく振りおろす。 「な、なんなのだ! 貴様、一体…」 流石に戸惑う三成に対し、男は渾身の力を込めて打ちかかりながら叫んだ。 「ァ千代と密室だと!?!?! この俺を差し置いて、一つ屋根の下で寝ただと!?!」 「は?」 何を言っているのかと三成が瞬きする。 「いや、いい。答えはいらない…」 「はぁ」
自ら距離を取ったかと思えば、利き手で顔面を抑え、それから一度深呼吸した。 「とにかく黙って死ね!!!」 「少しも落ち着いていないではないか!!! 今の間になんの意味があるのだよ!」 踏み込まれるより先に三成が距離を取り、アーツで押し返そうとするが男は天御柱神咆哮を巧みに操り全てのアーツを凌いで踏み込んできた。 「ァ千代は俺の女だ!!! 死ねぇ!!!!!!!!」 両手で握った天御柱神咆哮を振り回して襲いかかってくる。 「ァ千代は、誰にも渡さない!!! 彼女は、俺の妻だ!!!!!」 振り下ろされた天御柱神咆哮が大地を抉る。 「お前にも…お前の主にも……どんな辱めを受けようとも…俺は受け止める…俺のァ千代への思いは、変わらない…」 「何を…トチ狂ってるのかしらんが…」 口の中に充満する血をまとめて吐き捨てて、三成が立ち上がる。 「貴様の細君になど、俺は興味などない!!!」 左手で腹部を庇いながら、三成が志那都神扇を巧みに操った。 「目障りなのだよ!!!」 振り込まれる志那都神扇を受けながら宗茂が僅かに後退する。 「愚かだな」 弧を描いた志那都神扇が三成の手に戻り、広がっていた扇が閉じる。 「ぐう!」
火力の中心地でその爆破の威力を嫌というほど味わった宗茂が前のめりに倒れた。 「お疲れさん、色男。その頑張りに免じていいこと教えといてやるぜ」
霞んだ視界で、肩越しに背を取った相手を見るが、逆光で顔が良く見えなかった。 「の君主は女だ。で、そこにいる坊やはその君主以外は女に見えない病気にハマってるのさ」 それを聞き、宗茂の顔が和らぎを取り戻す。 「敵将、捕えたぜ」 飄々と声を上げた孫市を見、三成が眉を寄せた。 「横取りしおって」 恨み節のキレが悪い。 「来るなら、もっと早く来い」 三成が悪態を吐けば、
「いやぁ、お前が死ねば恋敵一人減るだろ? 期待してたんだけどな、この坊ちゃんに。 「…食えぬ男だ…」 言い終わると同時に、三成の意識もその場で潰えた。 「やれやれ、一番捕縛したい面倒な奴…逃がしちまったな」
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