服部のレッツゴー・ブートキャンプ |
絶句する二人の存在に気がついたは、先程放り出しておいたリストバンドを二つ取り上げた。 「…どこまで馬鹿なのじゃ…お前ら……まぁ、いい。付き合ってやろう、面白そうじゃしな」 「全く、我が君は見ていて本当に飽きぬな。この兼続も手伝おう。義を見てせざなるは勇無きなりともいうしな」
興味本位の政宗と、義心に火のついたらしい兼続が、自らリストバンドを取り上げて手に嵌める。 「面倒だねぇ」 言うが早いか、慶次が振りに合せて袖の中に手を引っ込め、上半身だけ諸肌になった。 「ちょ、慶次さん!!! 目のやり場に困るから、いきなり脱がないでよっ!!」 赤面するに対して慶次は豪快に笑い、言った。 「まぁ、これくらいは今の内に慣れてもらわないとねぇ」 「ええええッ?!」 まだ脱ぐつもりなのか!? とは動揺するが、慶次が言葉に秘めた意味は別にあるらしい。 「慶次殿ッ!! 戯れが過ぎ……ゲフッ、ゴフッ!!」 「幸村、慣れない内に話すと、舌噛むぜ?」 時すでに遅く、もう噛んだらしい。 「いいから着てってば!!」 「なんでそんなにこだわるんだい?」 「余裕綽々なのもちょっと腹が立つが、それ以上に脱ぎたくても自分は脱げない事が腹が立つ」と、が絶叫すれば、慶次は再度豪快に笑った。 「悪いね、今日は堪忍してくれ。着たくたって、手が思うように動かないんだ」 "そう、その調子だ!! 楽しむ心を忘れずに!! 後半戦も頑張ろう!!" 「うげぇ、まだ続くのかよッ?!」 成実が目を白黒させて毒づき、 「くーーーっ!! 使者どもめーッ!!! わけの分かんない妙なもん送りつけやがってーッ!!!」 自分の不注意、軽率さを棚に上げたは泣き叫ぶ。
翌日、早朝。 「おはよう…」 「おはようございます。様」 たった一日の運動で筋肉痛になったらしいは、全身を引き摺るようにして歩きながら評議場へと現れた。 「そう、それは…良かったね…。 目頭を覆うを、が心配そうに見つめている。
「うん、そりゃね、慶次さん、幸村さん、成実さん、半兵衛さん、小十郎さん、政宗さん、兼続さん、秀吉様、 続く陰鬱な愚痴が次第に涙声に変わって行く。相当辛いようだ。 「様…心中お察し致しますわ。にも出来る限りのお手伝いをさせて下さいませね」 「ちゃん……有り難う!!」 嬉しさのあまりが涙ぐめば、室の敷居の向こうから、孫市と左近の声が上がった。 「おはようございます、姫」 「よう、ご機嫌は如何かな? 俺の姫君」
昨日まで執務で城下町に詰めていた二人は、何があったのかをまるで知らない。 「さん、あんた…」 慶次が冷や汗を流し、幸村達が見守る中で、は平然と進む。 「おはようございます、左近様、孫市様。様をお救い下さいませ」
彼女は二人に挨拶をすると同時に、二人の腕にあのリストバンドをあて嵌めた。 「ハ?」 「ヘ?」 唖然とする二人の体に、突然襲いかかる重力。 「あ…大分楽になって来た…」 「良かったねぇ」 「しかし段々大事になってきたな」 政宗が顔を顰める横で、同様の筋肉痛に苦しむのは竹中半兵衛、片倉小十郎だ。 「見ろよ、たった一日で、こんなに引き締まったんたぜ?! すごいよな、特殊訓練!!」 「ほー、俺も混ざろうかな」
「音曲はやかましいし忙しないし、内容も辛いなんてもんじゃない。だが鍛錬としてはいいもんだと思うぜ。
一方で成実は蜂須賀小六を相手に己の腹筋を見せながら楽しげに話している。 「そうか、面白そうだな」 小六の相槌を聞き洩らさず、は動く。 「…………さん、あんた…」 「様の為ですわ。それに運動する事はいい事です」 前日から巻き込まれている全員が言いようのない眼差しで小六、、を見て、そして同時に視線をそらした。 「で、一体、何の話です? それにこれは一体…?」 中腰の左近が怪訝な顔をして問いかければ、慶次と幸村が全ての経緯を打ち明けた。 「マジかよ…」 「まさか俺ら巻き込まれたわけか?」 「そうなるねぇ」 「今日も正午過ぎに特殊訓練が始まりますわ」 普段おっとり、ほんわかしているの微笑み。それが今日はいやに怖いなと思った一同だった。
皆の嘆きを余所に、二日目のトランス・ブート・キャンプの時間はやって来た。 「様の御為…とは言え、これは…」 ふぅふぅと苦しそうに息を吐く家康に向い、左近が言う。 「あんたには丁度いいんじゃないか? 姫の話が本当なら、訓練終われば痩せてるはずだぜ」 「はぁ……それはそうなのだろうが…」 現実的には参加初日―――――秀吉と家康はトレーニング終了後に巻き込まれた―――――となる彼らが、こうした会話をしていられたのは、最初の一曲までだった。
"そろそろ慣れて来た頃かな? 二日目からは少し難易度を上げたトレーニングに入るぞ!! 「ええええっ?! 昨日のあれは、前哨戦だったのッ?!」 大分体に掛る重力も緩くなって来たことだし、ここは素直に諦めてトレーニングを受けようかという心持になったものの、インストラクター役の異人の男―――――が説明書で調べたところタイガーという名らしい―――――の言葉に、の心はあっという間に折れた。 「諦めが肝心だぜ? 女神」 「まぁ、一月、毎日半刻の地獄だとでも思えばいいでしょう」
巻き込まれているだけあって、当然やる気などはこれっぽっちも起きていない。 「…ふ、二人とも…疲れないんですか?」 四曲目に突入した所で問えば、彼らは淡々と答えた。 「え? 別に、ねぇ……かなり早い音曲ですが、乗れなくはないですしね」 「こんなん身を任せりゃ、負担は少ないぜ? 緊張したり抵抗しようとするからきついんだよ」 二人の助言を受けて、はそうなのかと素直に相槌を打った。 「今回はまた長いねぇ」 「それに複雑な動きが入ってきてますね」 「きっと初日分の動きを今日は前半だけでこなしてんだな、これ」 激しい動きをものともせずに冷静に分析。
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