服部のレッツゴー・ブートキャンプ |
"エクササイズは楽しめているかな? ここからが、本番だ!! そろそろ負荷を増やすぞ!!" 「何ッ?!」 これには当然、付き合わされている全員が顔色を変えた。 「さん、こりゃ一体どういう…!!」 左近が声を荒げ、が慌てて説明書を読み上げた。 「あ、は、はい! え、ええと……様がはめている"りすとばんど"は"えきすぱーと"用との事で……。 「上級者!!」 疑問に対して、もう叫ぶ形でしか答えられないが哀れでならない。 「まぁ、そうですの。有り難うございます、様」 「で、その上級者用ってのはどういう機能がついてんですか?!」 「あ、はい!! そうでしたわね、続きを読み上げますわ。 「具体的にはどのような事に?!」 「ええと…」 懸命に説明書とが向かい合い、言葉を探す最中、一同に最大級の重力が襲いかかった。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
象でも背負わされたのだろうか。 「無理、無理、無理っ!! これ、本当に無理ィ!! 私、死んじゃう!!!」 がずるずると大地に崩れ落ちる。 「様ッ!!」 かかる負荷のせいで足すらまともに上げられなくなっているのに、幸村はを心配して叫んだ。 「殿、私に負荷を増やして下さい!! これだけ人数が増えれば、どうにかなるはずですっ!!」 「は、はい!!」 元気だったはずの伊達成実と蜂須賀小六は汗を撒き散らし脱水症状になっているし、彼らの隣にいる片倉小十郎は、息が上がり過ぎて呼吸困難に陥りかけている。更にその横、竹中半兵衛に至っては既に意識を手放したようで、白目を剥いて体だけがマリオネットのように蠢き続けるばかりだ。 「何これ……まるで……まるで邪教のミサみたいじゃない…」 が息も絶え絶えぼやく。 「行きますわ、皆様!!」 確か、負担を回せと言ったのは幸村だけのはずなのだが。 「グハァァァァァァァァ!!!!!!!!」 流石に、今度ばかりは慶次までもが呻いた。 「皆、ごめんーっ!!」 掛る負荷が、増やされる前の負荷へと戻った為か、が意識を取り戻して泣き声を上げた。 「お、御気に…なさいま…すな…」 擦れる声、上がる息。そして滴る汗。 「畜生……全部終わったら、絶対にぶっ壊してやる…」 普段なら絶対に言わないような言い回しで左近が毒づいた。 「て、手伝おう…」 「同感じゃ」
兼続、政宗までが同意する辺り、参加者全員の極限状態を良く表している気がする。
"それじゃ、ラストスパードだ!! 後少しだよ、頑張れ!! 諦めるな!! タイガーの言葉に合わせて、今までとは異なるアレンジの音楽が流れ出す。 「あ…れ…? これは…冒頭の音曲では…?」
初日から巻き込まれていれば、いい加減音曲を覚えてしまうのも当然で、幸村が独白した。 「え、あれ? 今度は、別の音曲?」 「壊れてしまっているのではないか?」と視線で問う幸村の横で、が絶叫した。 「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!! 冒頭からかかっていた曲の美味しいところどり―――――別名一番過酷な部分ともいう―――――をした楽曲は、その後十五分にも及んだ。武士だけあって体力には相応に自信のあった面々ですら、全てが終わった後、その場に大の字で横たわり、半刻の間立ち上がる事が出来なかったという。
悪夢は続いた。 「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」 半兵衛が抜けた事によって、彼の分の負荷と彼に回っていたの分の負荷を担う事になった。 「様ーッ!!」 今度こその生命の危機だと判じたは、倒れっぱなしの半兵衛を無視して、腕輪を拾い上げるとその場でうろうろと歩き回った。 「…おー、ここにいたのかね」 「なんだ、この音曲は…?」
運がいいのか悪いのか、近隣領下の視察に出ていたはずの武田信玄と、その部下、馬場信春が顔を出した。 「お舘様!!」 信玄の姿を目視した幸村が青褪めて、叫ぶ。 「なんじゃい? また賑々しい事よのぅ」 軍配で己の面をコツコツと突く信玄の手をの白い指先が掴む。 「ん?」 「信玄様、申し訳ございませんわ!!」
ガシャンと音がして、信玄の腕に嵌るはずだった腕輪は、何故か信玄の横に立っていた馬場信春の腕に収まった。 「流石です、お舘様!!!」 「まぁ、儂じゃからのぅ〜」
そこは褒めるところではないだろう、と周囲は顔を引き攣らせるが、信玄はお構いなしだ。豪快に笑っている。 「…だめだ…この魔のループ……ど、どこかで断ち切らないと……全滅する……」 が息も絶え絶え呟けば、左近が言った。 「だから……壊しましょうよ…この箱」
「駄目ですわ!! 説明書によると、壊してしまったら皆様の手に嵌ったままの腕輪からくる負荷は、 慌ててツール破壊案を否定するの言葉に、全員が言いようのない絶望を抱え込む。 「……そ、そんなぁ……もう…い、いっそのこと…殺してよぉ………辛いよ〜」 が涙ぐめば、慶次が顔を顰めた。 「さんよ、俺に負荷回しな。まだいける」 「はい、お願い致しますわ」 身体能力の有利さからかなりの負荷が来ているはずなのに、慶次はの為ならばと踏ん張る。 「慶次さん〜、ありがとう〜」 「気にしなさんな。だから、諦めずに頑張んな」 「うん、がんばる〜」 目と目で会話するかのような、二人の世界を作り出される前に、孫市が言った。 「さんよ」 「はい、なんでしょう? 孫市様」 「俺もまだまだイケるぜ」 「分かりましたわ」
普段から能書きの多い孫市が簡潔に話しているあたり、どれだけ辛いのかが伺える。 「うぐっ!!」
瞬間、孫市の顔が微かに歪んだ。言いはしたものの、身体的にはかなり辛いようだ。 「左近もまだ平気ですがね」 「まぁ!!」 「真田幸村、我が闘志に陰りはないぞ!!」 「まぁ!! まぁ!!」 「孫市さん、左近さん、幸村さん、皆、皆、本当にどうもありがとう〜」
気持ちは分からないでもないが、闘志とか言い出してる時点で、彼もそろそろ限界に片足を突っ込んでいるような気がするのは気のせいだろうか? だとしても、を救えればそれでいいかな? と考えたようだ。
開始から十日目。 「いやぁ、引き締まりましたなぁ」 「某の腕もなかなかのものですぞ」 「俺は脚力に自信ついてきたかな」
上司がこんな感じで成果談義に湧き上がるものだから、部下も部下で特殊特訓に興味を示し始めてしまった。 「……皆…なんでそんなにお気楽極楽なのよ…」 最前列で踊るが毒づけば、左近が答えた。 「まぁ、娯楽も少ないですからね」 "さぁ、声を張り上げて!!" インストラクターのタイガーの声に合わせて、後方に続く兵達の声が轟く。 「わん・もぁ・せっつ!!!!」 ノリとしては景気づけに近いのだろう。 「…助けてくれてるのはよく分かってるんだけどさ……」 「どうしました?」 腕の開いたり閉じたりの動きを繰り返しながらはぼやく。 「これだけ辛い思い…してるってのに、あの三人は…何で……どうして、曲に合わせて歌ってんの?」
すっかり慣れてしまい歌詞までも覚えた三人―――――伊達成実、蜂須賀小六、馬場信春―――――はお気楽なもので、曲に合わせてノリノリで踊り狂い、歌い続けている。 「全くじゃ」 「あれだけ元気なのであれば…彼らにもう少し負荷を増やしても……」 「だよね…そうだよね?」
すると相変わらず息も絶え絶えになっている秀吉と家康が一も二もなく同調した。
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